【概要】
著者(監督):釘貫亨
古代日本では、
「母」の発音はパパ(papa)だった。
「日本語音声の歴史的な変遷を、奈良時代から現代語に近い江戸時代半ばまでの中央語を対象にして叙述する」のが本書の目的。定家、契沖、宣長らの先達や、漢語音韻学、そして近代西洋言語学の研究成果を踏まえ、当時の発音の復元を試みる。
ありがちなこととしては以下がある。
- 「大きな社会変動期には、情報総量が増大して言語変化が起こり得る」
- 「私たちの発音は、伝達総量が同じであれば、常に労力を節約する方向にむかう」
地味に見える日本の発音の歴史においては、万葉仮名、訓読み・訓読の発明、かな文字による散文の発達、定家の仮名遣い綱紀粛正、感じかな交じり文による洗練、江戸期の実証注釈学ルネサンスなどのハイライトがあったみたいだ。単語の長大化⇒発音の規制緩和⇒新音便誕生+子音・母音収斂とか、漢語・外国語の流入⇒新音誕生などの流れはもはや王道。情報伝達に問題なければ省エネしていくのは洋の東西を問わない。
なお、正体不明の者・すきえんてぃあが以下のような動画を投稿されているので雰囲気を感じられたい。
【詳細】
<目次>
- 序章 万葉仮名が映す古代日本語音声―唐代音からの推定
- 第1章 奈良時代の音声を再建する―万葉びとの声を聞く
- 第2章 平安時代語の音色―聞いた通りに書いた時代
- 第3章 鎌倉時代ルネサンスと仮名遣い―藤原定家と古典文学
- 第4章 宣教師が記録した室町時代語―「じ」「ぢ」、「ず」「づ」の合流と開合の別
- 第5章 漢字の音読みと音の歴史―複数の読みと日本の漢字文化
- 第6章 近世の仮名遣いと古代音声再建―和歌の「字余り」から見えた古代音声
<メモ>
英語も同様に大衆化・世界化していっている。格変化が消失していったり、綴りの揺れが少なくなったり、発音が簡単になっていったり。その一方、余りに使用頻度が高い語彙は不合理さが残るのも同じ。日本語だと助詞「は」「へ」の文字と音声のズレ、英語のスペルと音声の乖離はさておき、be動詞や不規則動詞が昔のにほひを残しているかな。