【概要】
著者(監督):江戸川乱歩
大正時代の初期作品を収める。推理小説だけでなく、エログロや妄想力が発露した短編もあり、谷崎味を感じられる。谷崎が犯罪小説的なものも書いていたように、日本推理小説の勃興期であった模様。そして何気に初・乱歩。「真実」を知ることにのみ興味のある明智小五郎君も登場。
以下のような語り口からわかるように、読者サービス精神旺盛。
- 「先を急ぐために、ごく簡単に結論だけをお話ししている暇がないことを残念に思う」
- 「けれども読者諸君の好奇心を充たすために」
- 「読者諸君、事件はなかなか面白くなってきた」
- 「探偵小説というものの性質に通暁せられる諸君は、お話は決してこれきりで終らぬことを百も御承知であろう」
推理をとうとうと語る謎解きパートの読みやすさはすごい。絶妙に当てられそうなレベルの謎解き、と見せかけてどんでん返し。一筋縄ではいかない展開には当時の読者も唸ったことであろう。起承転結の「転」で読者もツルっと転んじゃう感じね。
【詳細】
<目次>
<メモ>
・二銭銅貨
デビュー作だが、手堅く読ませる辺りに非凡さを感じる。
・二廢人
……あったのです。その風呂敷包みの中に、債権と株券がちゃんとはいっていたのです……
夢遊病(?)だったのか? ずっともやもやして生きていきそう。
・D坂の殺人事件
明智小五郎、登場。しましまの謎は解けたが、、、
・心理試験
当時の精神科学の隆盛を感じさせる。犯人を追い詰めていく明智君が怖い。裏の裏のそのまた裏をかかれた、無技巧主義の敗北であった。
・赤い部屋
消極的殺人。
・屋根裏の散歩者
屋根裏で夜な夜な覗き見。二階から殺人。
・人間椅子
発想が谷崎に通ずる変態。
誰も、私がそこにいることを——彼らが柔らかいクッションだと信じきっているものが、実は私という人間の、血の通った太腿であるということを——少しも悟らなかったのでございます。
・芋虫
被虐×嗜虐。
亭主を——かつては忠勇なる国家の干城であった人物を、何か彼女の情欲を満たすだけのために、飼ってあるけだものででもあるように、或いは一種の道具ででもあるように思いなすほどに変わり果てているのだ。