Javaさんのお部屋(サム・ジーヴァ帝国図書館)

Javaさんのお部屋です。引っ越しました。詳しくは「はじめに」を読んでね。スマホ版は全体像が見えにくいから、PC版と切り替えながら見てね。

紫禁城の黄昏

紫禁城の黄昏 (岩波文庫)

【概要】
著者(監督):R.F.ジョンストン 入江曜子、春名徹 訳

英国人著者の"Twilight in the Forbidden City"の主要部分の和訳版。1919年から溥儀の家庭教師として潜り込んだ著者が1934年頃に出版した。

この物語のなかで述べられている黄昏のほの暗い光は、夜の闇に飲み込まれてしまったが、それは時の経過とともに再び、太陽の光に輝く新たな日を迎えることとなろう。

自身が「華やかな色彩の調和をやぶる黒い汚点」であると自嘲しつつも、英国人というアウトサイダーの眼から、宮廷のありさまをポジティブ:ネガティブ=1:9くらいで活写する。幕末期の日本を訪れた外国人同様、日常のあれやこれやを事細かく記録している。「去勢された男どもや、穀潰しの役人輩」に嫌悪感を示しつつ、愛新覚羅溥儀マンセーを行う(著者の自己弁護でもある)。実際に溥儀が序文を寄せるなど師弟の親密な関係が窺える。

 

【詳細】

<目次>

  • 序章
  • 第1章 紫禁城1919~1924
  • 第2章 清室の教師たち
  • 第3章 黄昏の満州宮廷
  • 第4章 内務府
  • 第5章 龍いまだ幼く
  • 第6章 龍は目醒める
  • 第7章 自分の翼ではばたく
  • 第8章 龍と鳳凰
  • 第9章 陰謀と計略
  • 第10章 紫禁城の庭園
  • 第11章 夏の宮殿
  • 第12章 10月5日
  • 第13章 囚われの龍
  • 第14章 龍の飛翔
  • 終章 龍、故郷へ帰る


<メモ>

私は以前、皇帝との話のなかで、「維持現状」という言葉を、故人となった内務府の役人どもの墓に碑文として彫りこむべきですね、といったことがある。それは過去にこそふさわしいものであって、現在にあてはめるべき言葉ではないと思う。

 

私と教え子の関係は、はじめからしっくりいった。そして時が経つにつれてますます親密になっていった。私は、彼のもつ幅広い知識、率直さ、内外の出来事にたいする関心の強さ、寛大さ(気前のよさ)、芸術的才能、彼や彼の一家の仇敵にたいする復讐心のなさ、弱者への思いやり、重大な危機に瀕したさいの勇気、そして鋭いユーモアの感覚などおおくの魅力を発見した。

意外や意外。

 

彼の英語の知識は皆無であったが、私が奉職したのち、 この言語に習熟しようという努力はせず、語学にたいする興味もほとんどいだかなかった。彼がもっとも関心をよせたのは、世界の最新情報(ベルサイユ条約前後のヨーロッパの事情などをふくむ)、地理や旅行、初歩の自然科学(天文学をふくむ)、政治学、イギリス憲政史、そして中国そのものを舞台として日々目の前でくりひろげられる政治劇である。これらの話題を、われわれは中国語で、自由に、思いつくままに話しあったものであった。あれやこれやの雑談に花を咲かせて、往々にして規定の時間をついやしてしまぅたことは疑う余地もない事実であるが、かならずしも英語学習のほうが彼のためになったとはかぎらないと思っている。

 

  • 中華的師弟のしきたりや三跪九叩頭に代表される煩瑣な儀礼、古典に偏重した教育、横行する賄賂や中間搾取、宮廷の赤字財政、珍宝の国外流出、西太后や宦官の旧態依然とした考え方…宮廷内で孤立しつつも奮闘する。
  • ド近眼な溥儀へのメガネプレゼント、溥儀の辮髪セルフカット紫禁城内に与えられた養性斎の思い出、溥儀を負かしたテニスなど、心温まる(?)エピソードもある。
  • 英国人読者に向け、中国文化全般や謎に包まれた宮廷の舞台裏を解説したり、張作霖軍閥の雄や日本人の芳沢公使などへの人物評価をしたりする。

  • コロコロ変わる中華民国総統、溥儀の結婚、紫禁城内の火災、軍閥のクーデター、溥儀を連れての外国人居住区への脱出、張作霖爆殺、満州事変、満州国建国など、激動期の目撃者として貴重な経験を書き残している。が、結構内容を盛ったりしている模様。目次のタイトルが謎にカッコいいのも夢見がちな気質を匂わせる。溥儀の回想によると、「ジョンストンは自分の隠場所となったスコットランドの島に「満州国」の国旗を掲げるのを常とした」らしい。☜

 

出版時には満洲国が建国されていたので、

かの皇帝が大なる危難を見事に克服してきたことを、否定する者はいないだろう。中国大革命の際の危難、袁世凱の狡猾な野望、張勲の性急な忠誠心、宮殿の門前での軍隊との小競り合い、馮玉祥の冷酷な蛮行、反清室狂たちの暗殺計画、彼自身の支持者たちの熱狂的献身、1931年11月の闇夜の前後に彼の生命を狙った多種多様の陰謀や共同謀議、そしてその闇の夜に、彼は心から愛した出生の国―彼を無視し、侮辱し、略奪し、外国人であると公然と非難した国から逃亡して、父祖の地である満州の家へかえったのである。

紫禁城にたちこめた不快な瘴気、腐敗した宮廷の潜在的な害毒、これらの暗い生活環境に潜む危険も、彼の道徳や知的生活を損なうものではなかった。彼を脅かした外的危機を、すべて無事にくぐりぬけ、忍びがたい精神的な危機さえも、致命的な影響をうけることなく耐えぬいた。

もし中国の賢人の言葉が真実であるなら、皇帝の将来はまことに豊かで幸せなものとなるであろう。しかし、彼の性格を知る者としては、彼自身のために蓄えられた繁栄と幸福が、現在、彼を統治のために招聘した人民のうえに、十分に、しかもいよいよ増大するように分かち与えられるのでなければ、彼は決して満足しないことを確信している。

なお、現実は…。

 

〇関連記事

javalousty.hatenablog.com

 

javalousty.hatenablog.com