【概要】
著者(監督):マシュー・サイド 訳:有枝 春
航空や医療、司法業界などの実例を多数引用しながら、失敗から積極的にフィードバックを得ることでミスを減らしたり組織運営を良好にしていくことができると説く。まさに「失敗は成功の母」。失敗をネガティブにとらえるのではなく改善の糧とする精神の醸成が必要。自然科学では当たり前の考え方だが、社会科学では遅れている模様だ。
失敗のとらえ方を根本から覆し、仕事や日常生活で「究極のパフォーマンス」を引き出すことにある。我々は今、個人として、組織として、社会として、失敗との付き合い方を見直さなければならないのだ。
【詳細】
<目次>
- 第1章 失敗のマネジメント
- 第2章 人はウソを隠すのではなく信じ込む
- 第3章 「単純化の罠」から脱出せよ
- 第4章 難問はまず切り刻め
- 第5章 「犯人探し」バイアスとの闘い
- 第6章 究極の成果をもたらすマインドセット
- 終章 失敗と人類の進化
<メモ>
航空業界のミスと医療業界のミスの典型例:車輪の問題にこだわり続けたマクブルーム機長と、気管挿管にこだわり続けたアンダートン医師。しかしそれぞれで失敗後の対応が違った。医療業界では自己保身や確証バイアスなどの心理的要因から医療ミスを認めることはまれだが…
しかし航空業界の対応は劇的に異なる。失敗と誠実に向き合い、そこから学ぶことこそが業界の文化なのだ。彼らは、失敗を「データの山」ととらえる。
科学的手法に基づいた原因分析と改善がただちに為されるシステムを有する航空業界に対し、「アメリカの医療機関における根本的な問題は、医療行為を科学としてとらえてこなかったこと」だという。「人は自分の過ちを認めるのが嫌いだ」。「表が出ても勝ち、裏が出ても勝ち」と「自分の主義に都合よく解釈している」。
実は、ミスの隠蔽を一番うまくやり遂げるのは、意図的に隠そうとする人たちではなく、「自分には隠すことなんて何もない」と無意識に信じている人たちのほうだ。
他にも、「組織の上層部に行けば行くほど、失敗を認めなくなる」「我々は外発的な動機より、自尊心を守りたいという内発的な動機のほうに支配されやすい」という心理的バイアスが紹介される。
そういった
バイアスの罠から抜け出すためには、科学的マインドセットが欠かせない。
航空業界では、「『ヒューマンエラー(人的ミス)』の多くは設計が不十分なシステムによって引き起こされるという事実を理解した瞬間から、業界の考え方が変わった」。「改善すべきは、人間の心理を考慮しないシステムの方なのだ」。
失敗から学ぶことは決して資金の無駄使いではない。むしろ、最も効率的な節約手段だ。
それ、血の代償(罠)。
改善の最強の原動力は、彼らの組織文化の奥深くにある「失敗から学ぼうとする姿勢」にある。
システムづくりの例としては、思い込みではなくデータを元にして分析・改善を行う、経営層やマネジャー層が従業員のミスの報告に報酬を設ける、医師と看護師・技師や機長と副操縦士など、ともすれば上下関係を生じやすい関係者間の円滑なコミュニケーションを促すような研修を行うなど。
例の帰還機の某バイアスで有名なアレも紹介される。
「しかしコックピットと尾翼には砲撃を受けた形跡がない」。「つまり帰還しなかった(撃ち落とされた)爆撃機は入っていない」。「まず、失敗から学ぶためには、目の前に見えていないデータも含めたすべてのデータを考慮に入れなければいけない」
成功例:ハドソン川のあれ
「彼が成功して英雄となれたのは、航空業界がそれまでの失敗から学んでいたからだ」。
失敗をすることは、正解を導き出すのに一番手っ取り早い方法というばかりでなく、今回のように唯一の方法であることも珍しくない。
つまり、あえて「失敗」した。「ノズルを伸ばしたり、短くしたり、大きな穴や小さな穴を開けたりしました。
⇒品質工学的アプローチ