【概要】
著者(監督):古河 昌史
前作同様、レガシー産業従事者に手痛い言葉が随所に光る。デジタルトランスフォーメーションはただのカイゼンの一環ではなく、プロセス技術やITだけでなく経営層も巻き込んだ破壊的改革であることを理解しよう。技術的には、予測モデルを深層学習でブラックボックス化させずに、半経験半理論でおなじみ化学工学を引き続き活用すべき。知識体系については、著者の「アジャイルプロジェクトマネジメント」および「グローバル設備投資」に譲る。
【詳細】
<目次>
- 1.日本型経営と生産設備に対する考察
- 1. 1 日本企業の経営方針とその問題点
- 1. 2 日本の製品群の問題点
- 1. 3 日本の生産設備の問題点
- 1. 4 日本型経営と生産設備に対する考察
- 1. 5 日本企業の IoT
- 2.革新的プラント設備の計画・設計方法
- 2. 1 プロジェクトマネジメント
- 2. 2 製品の系列化と樹形図
- 2. 3 製品の分類と統廃合
- 2. 4 基本設計
- 2. 5 フィージビリティスタディ
- 2. 6 生産設備の調達
- 2. 7 制御方法とシステム構成
- 2. 8 PLCデータログにおける注意事項
- 2. 9 AI適用に関する考察
- 3.製品分析の実例と考察
- 3. 1 分析データのバックグランド
- 3. 2 樹形分析とその結果
- 3. 3 評価指数とその解説
- 3. 4 製品ポートフォリオ分析
- 3. 5 自動化プロセスの検討
- 4.まとめ
<メモ>
★問題点と課題
①品種多すぎ
- 「日本の生産設備は、一般的にいわれるスケーラビリティが非常に低い状態である」。
- ⇒つまり「品種が多すぎる」。「多くの製品は、企業利益にほとんど関与せず、売上高を上げるためだけに生産されているのである」それに加え、「日本のファインケミカルや素材産業では、冗長化や並列化、スタンバイ設備等のリスクヘッジは検討されていない」。
- ⇒「顧客が欲しいときにタイムリーに作って売ることができなければ、シェア拡大も利益率の増大も見込めない」。また、「重合開始材や禁止剤が残留した設備で新たな反応を行えば、分子量やその分布に大きな影響を与える」。
- ⇒「パレート分布」した「利益額の大きい製品を、より効率よく生産し不採算製品から撤退する経営判断こそが、デジタル改革においてなにより重要なのだ」。
②人に頼りすぎ
- 「代案や対案を提示することが許されない担当者が、顧客要求をすべて飲むことで、誰もが得をしない非人道的な労働環境がエンドレスに生み出されていく」。「限界を超えた無理は、違法で危険な労働条件により吸収される」。
「日本の製造現場作業者(オペレータ)は世界で最もレベルが高い。これは現在でも胸を張って世界に誇ることができる。しかしながら、今後の生産の主役は人間ではない。機械とコンピュータ、そしてデータである」。 - ⇒「自動化による無人生産、ビッグデータ蓄積からの高度な分析と制御を可能とするためには、品種切り替えがない事と、蓄積された生産データと検査結果(教師データ)との相関が演繹できる事とが基本条件」。「設備も、同じ条件で動かし続ければ、当然ながら故障などのトラブルも起きにくい」。
- ⇒「設備はトラブルを起こすもの」であることを肝に銘じ、「設備を冗長化させて故障時には他の設備で生産が続けられるよう、基本設計段階における計画が必須」。
★あるある、お役立ち
- 「フィボナッチ数のような離散値」でアセスメント時に点数付け(1,3, 7, 15みたいな)。
- 「生産量上昇に比較し、プラントコストはその 0. 6 ~ 0. 8乗程度しか上昇しない」。
- 「プラント設備において、故障予測に必要な教師データを短期間に大量に取ることは不可能」。
- 「プラント制御において 80%の精度は使い物にならない」。
- 「重回帰分析などの線形型 AI」がおすすめ」。
- 「オンラインで計測しやすい測定値を従属変数にする」。
- 「独立変数は原料モル数であるaやbだけでなく、系内の物理状態である槽内温度・ジャケット温度・圧力・温度変化・圧力変化・撹拌速度・撹拌電流値などから採用されることが一般的」。
- 「エクセルや R、 Pythonなどで十分に相関を研究してから次のステップに進むことを推奨」する。
- 「すでにレガシーな工学で明確になっている相関関係を無視して、深層学習のような非線形型アルゴリズムと CPUパワーだけでゴリ押しするような解析は絶対に行わないことである」。「化学工学などのレガシーな工学を理解したエンジニアが、 ITリテラシーを向上させ自社内のシステムエンジニアと協力してデジタルトランスフォーメーションを実現する必要があるのだ」。
- FS時点で「筆者が推奨することは 2つだけである。一つは、計画初期の予算や納期に精度を期待せず、アジャイルによる柔軟なマネジメントを展開すること。もう一つは、入札前には詳細設計を完了させておくことである」。
★悪口集
- 「恥ずかし気に薄ら笑いを浮かべながら、てんでバラバラに手足を動かす程度が関の山」
- 「永遠に使われないボタン」
- 「多くの管理職や取締役のありがたいお言葉を受ければ受けるほど、そのコンセプトが混乱していく」
- 「優秀な人材を集め、世界一マヌケなコンセプト」
- 「根性スローガン」
- 「昭和 40年代の設備を、大手企業が使用し続けている有様である」
- 「銀座の一等地に、 1時間 100円のコインパーキングを設置しているようなもの」
- 「必要のない無駄なグラフが大量生成」
「どうせろくな実績等上げていない」 - 「“瞬停ゼロ”とか、“設備トラブルゼロ”といった、幻想的で無策に近いマネジメント」
- 「化学工学やプラント設計の基礎すら理解しない SIerと、 ITリテラシーが極めて低い顧客の間で、非効率的な開発作業が進められる」。
- 「日本ではサービスは無料といった誤った考えが横行」しているが、「これは、本来買い手側が実施すべき開発業務や調査業務を、売り手企業に無償で実施させている行為」。「買い手側が無料だと勘違いして無計画に依頼している見積にかかるコストが、まわりまわって買い手企業の投資コストを押し上げている」。
- 「フィージビリティスタディ段階の予算に対して、 ± 5%の誤差で計画を完了するような、めちゃくちゃな要求」をする。「予算や工期は 5%の誤差も許さないくせに、実際の仕様は杜撰で定量的には何も規定していないのが日本流のプロジェクトマネジメントである」。
- 「無能なコンサル」
- 「ITリテラシーの低い中高年エンジニア」