Javaさんのお部屋(サム・ジーヴァ帝国図書館)

Javaさんのお部屋です。引っ越しました。詳しくは「はじめに」を読んでね。スマホ版は全体像が見えにくいから、PC版と切り替えながら見てね。

あのこは貴族

あのこは貴族 (集英社文庫)

著者(監督):山内マリコ

映画から。基本的には映画とほぼ同じだが、いろいろと異同があるので映画とはまた違った味わいがあるかも。登場人物の背景掘り下げや「女同士の義理」の強調とか。やっぱり文化資産ってあるんやろなあ(; ・`д・´)

中学時代からなに一つ変わらない人間関係の、物憂い感じ。そこに安住する人たちの狭すぎる行動範囲と行動様式と、親をトレースしたみたいな再生産ぶり。驚くほど保守的な思考。飛び交う噂話、何十年も時間が止まっている暮らし。同じ土地に人が棲みくことで生まれる、どうしようもない閉塞感と、まったりした居心地のよさ。ただその場所が、田舎か都会かの違いなだけで、根本的には同じことなのかもしれない。

 

【詳細】
<目次>

  • 第一章 東京(とりわけその中心の、とある階層)
  • 第二章 外部(ある地方都市と女子の運命)
  • 第三章 邂逅(女同士の義理、結婚、連鎖)
  • 終章 一年後

 

<メモ>

  • 「生まれてこのかた東京にしか住んだことのない華子の目には、東京の外はまるで見えていないのだった」
  • 映画よりも幸一郎がアサヒスーパードライ
  • 映画との異同や追加情報……華子が大手化粧品メーカーに親のコネで腰かけていたこととか、幸一郎が慶応⇒東大法科大学院だったこととか、女同士の義理『心中天網島』の強調とか、結婚式にミキティも参加していたこととか、離婚の理由が違うとか、「その酷い結婚、半分は幸一郎さんの責任てこと忘れてません?」など華子が自分を出せるようになるシーンとか、華子の自己実現の実感がよりわかりやすく描かれているとか。
  • 「テーブルについたホステスは、まるで空気を循環させるために置かれたサーキュレーター」などの乾いた比喩(; ・`д・´)
  • 最後で最初のタクの運ちゃん再び。

 

華子はただただ普通に生きたいと思っている。華子にとっての普通とは、結婚して、子供を産み、私立のちゃんとした学校に通わせて、家庭を守ること。海外旅行に年に一度行ければ充分だ。あとはなにか楽しい趣味でも見つけて、のんびり生きていきたい。

 

青木幸一郎はとても堂々としていて、見ていてこっちが照れてしまうところがない。そういう意味では非常に洗練された人物であった。青木幸一郎のこの圧倒的に無傷な印象は、ほかの場面でもしばしば見受けられた。この人は本当のところ、恥というものをかいたことがないのではないかというような、一本太い神経が背骨に通っている感じ。「照れますね」と言いつつ、微塵も羞恥を感じさせない控えめな尊大さ。そして華子は幸一郎のそういった部分を「頼もしい」と解釈した。

 

東京の真ん中にある、狭い狭い世界。とてつもなく小さなサークル。当人たち以外にはさして知られることもなく、知られる必要もなく、ひっそりしていたが、そこに属していることで生まれる信頼と安心感は、絶大だった。

 

四月のキャンパスのあまりの混雑具合に凹んだこと。アパートの寒くて小さなお風呂場で、一人悠々半身浴しているとき、惨めさと同時に自由と幸せを感じたこと。高校時代に愛用していたOUTDOORのリュックとプーマのスニーカーじゃ、どうにも格好がつかなかったこと。あまりにダサい自分が嫌で、どんな服を着れば垢抜けるのかファッション雑誌を真剣に読み込むが、載っている服の値段を見て絶望したこと。秋に真っ黄色に染まった銀杏並木からぷっんと漂ってきた、銀杏の匂い。
でもそれも、たった一年で終わってしまった。
いまはすべてがただ懐かしい。

 

けれどおかしなことだった。家族や同級生はあの街で充足して、なんの疑問もなく、あんなに居心地よさそうにしているのに、自分一人だけがなぜだか、あそこになじめなくて、あそこにいたいとは思えないのだ。
それはいつからだろう。
一体いつ、あたしは外に出たいと思ったのだろう。

 

東京は底なしに享楽的で、隅々まで気が利き、それでいて心安く、居心地だってたしかに悪くはないけれど、あまり長居をすると自分が生ぬるい俗世にからめとられていくようで、理由のわからない苛立ちに襲われた。そうして居てもたってもいられず飛び出したくなるのだった。どこか遠くへ。うんと遠くへ――。

 

相楽さん「最初に断っておきたいんですけど、あたし別に、二人のキャットファイトが見たくてこの場をセッティングしたわけじゃないんです。対決させようと思ってるわけでもないし、時岡さんに手を切ってくれ、みたいなことを言うつもりも、あたしはあんまなくて」

争うだけじゃない関係性もあるよ(; ・`д・´)

 

美紀さん「世の中にはね、女同士を分断する価値観みたいなものが、あまりにも普通にまかり通ってて、誰よりも女の子自身が、そういう考え方に染まっちゃってるの。だから女の敵は女だって、みんな訳知り顔で言ったりするんだよ。若い女の子とおばさんは、分断されてる。専業主婦と働く女性は、対立するように仕向けられる。ママ友は怖いぞーって、子供産んでもいないのに脅かされる。嫁と姑は絶対に仲が悪いってことになってる。そうじゃない例だってあるはずなのに。男の人はみんな無意識に、女を分断するようなことばかり言う。ついでに言うと幸一郎は、あたしとその婚約者の子をもう分断しちゃってる。もしかしたら男の人って、女同士に、あんまり仲良くしてほしくないのかもしれないね。だって女同士で仲良くされたら、自分たちのことはそっちのけにされちゃうから。それって彼らにしてみれば、面白くないことなんでしょ」

 たしかにそういうとこあるかも(; ・`д・´)

 

給仕係に差し出されたメニューを受け取るときの、さりげない会釈。注文するときの声の感じのよさ。コーヒーではなく迷わず紅茶を選ぶ嗜好。パテントレザーのバッグを背もたれの前にちょこんと置く、身についたマナーのよさ。華子の一挙手一投足が目に飛び込んできて、そのいちいちにはっとするような驚きと、それから敗北感を感じてしまうのだった。

 

中学時代からなに一つ変わらない人間関係の、物憂い感じ。そこに安住する人たちの狭すぎる行動範囲と行動様式と、親をトレースしたみたいな再生産ぶり。驚くほど保守的な思考。飛び交う噂話、何十年も時間が止まっている暮らし。同じ土地に人が棲みくことで生まれる、どうしようもない閉塞感と、まったりした居心地のよさ。ただその場所が、田舎か都会かの違いなだけで、根本的には同じことなのかもしれない。