Javaさんのお部屋(サム・ジーヴァ帝国図書館)

Javaさんのお部屋です。引っ越しました。詳しくは「はじめに」を読んでね。スマホ版は全体像が見えにくいから、PC版と切り替えながら見てね。

壬生義士伝

壬生義士伝(上)

【概要】
著者(監督):浅田次郎

(上)(下)浅田次郎らしく人情系の時代小説。大正期の新聞記者らしき人物が数々のインタビューを経て幕末の剣士・吉村貫一郎なる人物を浮かび上がらせる。吉村の独白とインタビューが交互になっており、クライマックスに向け徐々に盛り上げていく感じ。若干やりすぎの感もあるが、南部弁や江戸弁などの語り口で泣かせに来る。『永遠の0』みたいにだんだん真相に近づくにつれ評価が上がっていく。

新選組隊士(居酒屋おじさん、桜庭弥之助、斎藤一)、親友大野の息子千秋、同じく中間の伝助、あと稗田さんがインタビュー先。新選組の話は『燃えよ剣』みたいな感じで手に汗握るハラハラ感がある。吉村の、一見温和で家族思いだが金にがめつく切り合いには滅法強い、というのがキャラ造形的には面白い。子供同士が仲よくしてるのも〇。

 

【詳細】
<メモ>

吉村最期Aパート:妻子のために脱藩し送金しつづけ、その果てに義士として果てる吉村の独白。

幕末/近代Bパート:記者がインタビューしている現在。沖田、永倉、原田、斎藤、近藤、土方、伊東などの新選組のお歴々が出てくるので動きがある。幕末編だけでなく、Aパートのその後も描かれる。親友の子供同士で結婚するくだりは恩讐の彼方に感。

 

のう、しづ。
したどもわしは、よもや施しのつもりでお前を嫁こにしたわけではねえぞ。お前はしばしば、おのれが貧乏の大もとのように言うて泣いたが、そうではない。
お前がおったればこそ、わしは人並み以上に精を出し、学問も修め、剣術も藩道場の師範代ば務めるほどに上達した。お前はいっつも、わしの力のみなもとじゃった。
のう、しづや。口にはついぞ出せねがっだ心のうちを、聞いてくれるか。
わしは心の底から、お前に惚れとり申したぞ。御殿様のために死ぬ覚悟はできねども、しづに死ねと言われれば、わしはいつなんどきでも、命ば投げ捨てた。
正覚寺の門前で初めて出会うたときより、今の今まで、わしの胸にたぎるお前への思いは、いささかも冷えたためしはない。いんや、それは日ごと年ごとに、つのるばかりじゃった。
次郎衛殿に腹を切れと命ぜられたとき、わしはとっさにこう思うた。
ああこの言葉を口にしたのが次郎衛殿ではなく、しづであったのなら、さだめし楽じゃったろ、と。

 

あの人、誰よりも強かったもの。それに、誰よりもやさしかったですよ。強くてやさしいのって、男の値打ちじゃあないですか。ほかに何があるってんです。
あの人はね、まちがいだらけの世の中に向かって、いつもきっかりと正眼に構えていたんです。その構えだけが、正しい姿勢だと信じてね。
曲がっていたのは世の中のほうです。むろん、あたしも含めて。

 

そのとき、また妙なことが起きたんです。私自身、思いもかけぬことが。
体が姉のかたわらをすり抜けたと思うと、私は大野先生をがっしりと抱きしめていたのですよ。どうしてそんなことをしたのかはわからない。目に見えぬ力が、私にそうせよと命じたような気がします。
ありがとうございます、と私は何度も言った。

 

もう、誰も飢えさせはしない。けっして、貧しさのためにふるさとの親子を別れさせたりはしない。お国が男たちを戦にかり出すというのなら、私は女子供の力でも十分に実る稲を、ふるさとの田に植えます。
和賀川を渡りました。
ああここが、南部の国ですね。