【概要】
著者(監督):三輪修三
中国やイスラーム世界など、西欧世界以外にも注目している点が評価できる。が、やはり中世後期以前はカラクリ止まりで、ほぼ15-16世紀以降の西欧世界の記述がほとんどになるのは致し方なし。綺羅星のごとき数学者・物理学者・技術者の系譜(〇〇の式・法則に登場する人物たち)がまぶしい。
土木建築や天文学などで培われた個別的な知識が、ルネサンス期の軍事や鉱山開発などの産業の洗礼を経て発展・体系化され、近代以降は鉄道や航空産業といった当時の先端産業によってさらに研ぎ澄まされていく。暗黒期に見えた中世に着実に理工的な知識が蓄積されていったのは興味深い。また、技術的な高等教育機関(エコル・ポリテクニク)や技術者の地位向上が見られるのもチョッピリうれしい。材料力学、振動工学、熱工学、航空力学、製図・工作機械技法・技術など、新たな学問領域が開拓されていく一方で、タコつぼ化・専門分化が進んでいくのはもはや運命か。
四大力学(材料、機械、熱、流体)や近代日本に絞った話もあり、先人たちの蓄積を評価している。
日本の高等技術教育の開始は先進諸国の動きにくらべて決して遅すぎるものではない。江戸時代は鎖国で停滞の時期と思われているが、これはまったくの誤りである。
飛び梁、リバティ型溶接船の脆性破壊、ゼロ戦のフラッタ、抜山カーブなどのコラムもなかなか。
金融工学はあっても恋愛工学は入っていない模様。
【詳細】
<目次>
- 古代の機械技術と技術学―紀元前5世紀から後9世紀ごろまで
- 中世の機械技術と技術学(10‐14世紀)
- ルネサンス期の機械技術と技術学(15,16世紀)―技術と科学の結合
- 動力学の誕生と発展(17世紀)―ガリレオからニュートンまで
- 動力学の展開(18世紀)―解析力学の完成
- 産業革命と近代エンジニア(18、19世紀)
- エコル・ポリテクニク―工学と工学教育の誕生
- 近代機械工学の夜明け
- 産業技術の発展と機械工学
- 機械工学の専門分化と発展1―材料力学、機械力学
- 機械工学の専門分化と発展2―流体工学、熱工学
- 近代日本―機械工学の導入と定着
- 機械工学の現在と未来
- 終章―工学史への招待
<メモ>
- 工学、それは血と涙が培った経験工学。
- 物理学者というか自然科学者・数学者の区別がついていなかった時代が長かったが、産業革命あたりからエンジニアなる技師・技術者が誕生。
- 技術と進歩の二重らせん・両輪でそれぞれ(総体として)発展していく。
- なんで土木建築はCivil?:Civil(民事)による軍事技術と区別するため。