【概要】
著者(監督):山本史郎
川端康成や三島由紀夫、村上春樹、ディケンズ、サリンジャー、モンゴメリなど、さまざまな作家や作品が登場。同化/異化翻訳、実用/文学テキストなど、翻訳業界のアレコレを例示しつつ、直訳/意訳の不毛な議論にピリオド。形式にこだわらず、著者の頭の中を紙面に再現できればそれでOK!
【詳細】
<目次>
- 第1章 『雪国』の謎
- 第2章 「同化翻訳」と「異化翻訳」
- 第3章 視点と語り
- 第4章 実用と文学のはざま
- 第5章 岩野泡鳴と直訳擁護論
- 第6章 翻訳家の仕事場
- 第7章 翻訳と文体
- 第8章 翻訳革命
<メモ>
▶翻訳者の役割
先の文章をモンゴメリが書いた時には、out by the day's... という実際に書いた言葉のほかに、tired out, exhausted, blackout, couldn't be helped, couldn't stay awake a moment longer など、実際には書かれなかった表現が無数に存在したはずです。作者の頭の中、あるいは意識の下に渦をまいていたはずです。そのような、語句やイメージが重なりあって、言語表現を生み出す母体(マトリックス)を構成しています。そして、このマトリックスから適切な表現を引っ張り出してくるのが、翻訳者の役割です。
▶翻訳プロセス
【第1段階】
作者が描いた世界を正しく理解し
言語表現を生むマトリックスを理解する
【第2段階】
原作の言語表現を解体し
原語固有の接続表現を排除し
単純な情報に還元する
【第3段階】
箇条書きの単純な情報を
翻訳語に固有の接続表現を用いて
原作と相似の世界を描き出す
以上から生じる重要な帰結。
(a)接続表現は翻訳の対象ではない。
(b)翻訳とは言語レベルの置き換えではなく、コミュニケーションのレベルの転換である。そして、コミュニケーションとは、作者と読者が「世界」を共有する「出来事」である。