【概要】
著者(監督):町田康
(1)千年の流転
『ハードボイルド読書合戦』より。
「蹶起しようと思わないんですか。チンポないんですか」
「いっぺん菊門でもつけ狙ってみようかな」
「おほほ。ざまあみろ。ぼけが」
見ての通り、文体がぶっ飛んでいる。基本的にストーリー展開は原典ベースではあるが、義経が現代からあの日々を振り返っているという設定なので、現代的事物も外来語も何でもありの無法地帯の文体になっている。こんなぶぶっ飛んでてもいいんだ! と小説の自由さに思い至れる。(1)は吉次や伊勢三郎義盛との出逢い、奥州下り、六韜ゲット、弁慶との読経セッションなど。
「自慢するわけじゃないが…」と自己顕示欲が強めだったり、菊門ネタに味を占めたり、早業なる超人的能力で無双したり、気軽に殺人したり、メンヘラ弁慶がリストカットしたり、中世とは思えないほど自由なトークでボケ倒してみたりとやりたい放題ではあるが、あの頃は神威・神徳、霊威・霊徳が実際にあった、土地所有が複雑で事態を動かすには政治力が要った、などの中世解説がたまに入る。それにしても義経、口から火炎放射したり、「早業」で高速移動・隠密行動・剛力無双したり、条件付きの時間巻き戻ししたりとチート能力を持っている。
(2)奈落への飛翔
顔、でかっ。
えええええ? なんすか、これ。
負けないわよ。勝たないけど。と、そのとき私は思っていた。二十七歳。美男。私は、前途に、へっ、まだまだ希望を抱いていた。
弁慶「ごめんで済んだら検非違使いらんのじゃ。こんかれ」
弁慶「ひどい。ひどすぎる。みんなの前で私のこと馬鹿って言った…」
「僕、グミ持ってるんですけど要りません?」
「あかん。ちんぽが爆発する」
頼朝との出逢い、正尊軍の襲撃と追討、都落ち、船旅と合戦、静御前との別れ、等々。頼朝との邂逅から源平合戦ばっさりカット(原作通りらしい)。相変わらず好き勝手おちゃらけながらやっているが、時折淋しさや無常の風が吹いていく。
解説がハードボイルド。「中世のアナーキーに現代のアナーキーをぶっこんでいるから尋常ではない」とのこと。確かに。
※(3)以降に続く(続刊)
【詳細】
<メモ>
↓この本で『ギケイキ』を知る。
(1)千年の流転
頭の中のゴチャゴチャの想念を文章化したような文章が衝撃的。外来語や現代的な事物も好き勝手に入れてくる:大日本帝国陸軍、ピラミッドのパワー、SECOM、九郎義経ホールディングス、高須クリニック、MPやHPなど。たとえば:
- 「蹶起しようと思わないんですか。チンポないんですか」
- 「つかまあ、この兄も私も生き残れなかったんだけどね。ははは。」
- 「いっぺん菊門でもつけ狙ってみようかな」
- 「あひゃーい。あきゃーん。なんじりなんじりなんじりなんじりヤマハメイト」
- 「あ、しもた、立った拍子に屁ぇこいてもうた」「くさっ」
- 「おほほ。ざまあみろ。ぼけが」
- 「@shugyosha 修行者の人は書写山だけは行かないほうがいいよ。書写山は修行者を使い捨てにするブラックテンプルだよ」
②奈落への飛翔
解説:
- 頼朝さんの立場は安定的なものではなかった。
- 起請文の重み
- 私は三つのパワーを持っていた。…武将としての神秘的な能力、院から分与された権威、鎌倉殿御代官
- 宣旨・綸旨・令旨のランク
- 書類発行手続きの煩雑さ
- 頭を露出するのはブリーフどころか陰茎丸出しに同じ
- 義経は人気者で、院・南都・北嶺・熊野などの諸勢力と良好な関係で、伊勢・伊予にも基盤あり
- 武士道的な概念はまだない
私は普段からこの少年の菊門を犯しまくっていた
私がそう言った瞬間、兄弟の盟約が成立した。貴種×2。私が頼朝さんに代わって
武士団に睨みをきかしてやる。 裏切りは私が許さないから頼朝さんは安心してくださ
い。そう思って私は兄の巨顔を見上げていた。あのときはそう思っていた。あのとき
は本当にそう思っていた。ところがあんなことになった。
水だけが流れていた。空には雲が流れていた。雲はいまも流れている。私も流れている。どこへ。わからない。
そして静は冷静だった。静だけに。なーんてね。私はいまはそんなことも言える。今はそんなことが言える。
負けないわよ。勝たないけど。と、そのとき私は思っていた。二十七歳。美男。私は、前途に、へっ、まだまだ希望を抱いていた。
生暖かい風を受けて帆走する。生きるということはこんなことなのだろう。片岡、弁慶。女たち。みんなそれぞれの生を生きている。佐藤も。名もなき男たちも。躍動のまにまに殺し殺される。そもさん説破。そんな瞬間のやりとりが戦場ならば、ここも戦場、そこも戦場。命はいつだって流動している。悔いなんてある訳がない。ただ、訳もなくブルブル震え、躍動するだけなのさ。