サム・ジーヴァ帝国図書館(Javaさんのお部屋)

Javaさんのお部屋です。引っ越しました。詳しくは「はじめに」を読んでね。スマホ版は全体像が見えにくいから、PC版と切り替えながら見てね。

戦艦武蔵

著者:吉村昭
評価:B

九州の漁場。戦艦とは何の連関もなさそうな、棕櫚の買占めから物語は始まる。『零式戦闘機』でははじめに牛が登場したが、本書と同様の手法だ。
題材として、「大和」ではなくその同型艦である「武蔵」が選ばれたのは、その建造、進水、秘密保持に、より甚大な労苦が払われたからであろう。著者は、狂気のエネルギーを軍艦建造その他に注ぐ人間たちの姿を冷徹に描写する。
丹精込めてつくりあげた巨艦の進水式、竣工式が行われた時の所員の感動はいかばかりであっただろう。
それだのに、参戦時期の遅さからさしたる活躍もできずに南洋に沈んだ武蔵。これを空しすぎると言わずして何と言おう。

武蔵46㌢主砲の爆風や帝国海軍の砲弾命中率、消費する重油量の莫大さには驚かされた。


かれらは、誰一人として手を休めている者はなく、千数百名の所員たちは、汗と油にまみれて作業に取り組んでいた。
 それらの小さな人間の群れの中で、おびただしい量の鉄で組立てられた巨大な船体が、奇怪な生物のように傲然と横たわっていた。

「バンザイ」
 不意に喘ぐようなかすれた声がした。それにつられて、作業員たちは、両手をあげて唱和しはじめた。号泣に近い声だった。
 熱いものが、頬にあふれた。巨大な城がすべって行く。それは、一つの生き物だった。尾部が海面に突っ込むと、はげしい水飛沫が上った。その音が鎖の音と交叉して、作業員たちの声をかき消した。