【概要】
著者(監督):ジェイコブ・ソール 村井章子 訳
「会計責任を果たすことがいかにむずかしいかを知るために、700年におよぶ財務会計の歴史をたどる」。
「会計責任とは、他人の財貨の管理・運用を委託された者がその結果を報告・説明し、委託者の承認を得る責任」で、「財政の責任を継続的に果たした完璧な国家は、一つとして存在しない」。
というわけで、ハンムラビ法典やアウグストゥス帝の帳簿から説きはじめ、イタリア、スペイン、オランダ、フランス、イギリス、アメリカといった覇権国家の盛衰の裏には帳簿があったことを明らかにする。現代では、複雑化しすぎた金融業界の正確な監査はもはや不可能なレベルにまで達している。
厳正な会計・帳簿管理は権力者の個人的な資質によるところが大きく、彼らが厳格・勤勉なうちは良かったが、それが崩れると見事に崩壊していくパターンが繰り返されてきた。社会的には公正で明朗な会計が求められてきたが、王や権力者にとっては資産を把握されたくないという両者の矛盾が構造的に横たわっており、永続的なシステム持続は難しい。維持が大変。
特別付録の日本編が地味に嬉しい。江戸時代は金融商品や取引の高度化により会計も高いレベルにあった模様。近代化の礎の一つとなった。
【詳細】
<目次>
- 序 章 ルイ一六世はなぜ断頭台へ送られたのか
- 第1章 帳簿はいかにして生まれたのか
- 第2章 イタリア商人の「富と罰」
- 第3章 新プラトン主義に敗れたメディチ家
- 第4章 「太陽の沈まぬ国」が沈むとき
- 第5章 オランダ黄金時代を作った複式簿記
- 第6章 ブルボン朝最盛期を築いた冷酷な会計顧問
- 第7章 英国首相ウォルポールの裏金工作
- 第8章 名門ウェッジウッドを生んだ帳簿分析
- 第9章 フランス絶対王政を丸裸にした財務長官
- 第10章 会計の力を駆使したアメリカ建国の父たち
- 第11章 鉄道が生んだ公認会計士
- 第12章 『クリスマス・キャロル』に描かれた会計の二面性
- 第13章 大恐慌とリーマン・ショックはなぜ防げなかったのか
- 終 章 経済破綻は世界の金融システムに組み込まれている
- 日本版特別付録 帳簿の日本史(編集部)
- 解説 山田真哉
<メモ>
- 中世イタリアの共同出資方式などの高度な金融システム、それを支える複式簿記の発明はお見事。会計士の地位の変遷も絵画に象徴的に描かれている。
- コジモ、コルベール・ネッケルらによる国家の交易・資産管理、ウェッジウッドの原価計算、産業革命で生まれた鉄道事業が財務会計を複雑化させた。必要は発明の母。
- 大量のソースノート30ページ分に著者の力量を見る。
本書で見てきたように、ルネサンス期のイタリアやスペインから、オランダ、イギリス、アメリカなどの商業国家にいたるまで、会計の発展には一つのパターンがある。最初にめざましい成果を上げたかと思うと、いつのまにかあやしい闇の中に引っ込んでしまうのである。商業や金融が最も発達した文化においてさえ、ディケンズが雄弁に書き立てたように、会計は「すばらしく輝かしく、途方もなく大変で、圧倒的な力を持ち、しかし実行不能」だった。 会計は人間の能力を超えており、数字と書類の迷宮の中からその威力を発揮するには幸運の助けを借りなければならない、とディケンズは考えていた。
何世紀にもわたって会計責任を確立する努力が続けられてきたことを考えると、いまだに監査が効果的に行われず、企業や政府が責任を果たさずにいるのは、理解に苦しむ。だがこれにもお決まりのパターンがある。会計改革というものは、始まると直ちに頑強な抵抗に遭う、ということである。しかもテクノロジーの発達は、会計の仕事をむしろ一段と困難にした。 規制当局も監査人も途方もない数字の山にたじろぎ、取引の高速化に手を焼き、デリバティブや証券化技術を駆使した複雑な金融商品にはお手上げ状態である。
会計が日常生活から切り離された結果、人々の関心は薄れ、多くを期待しなくなってしまった。かつて社会は、財政に携わる人に対し、会計を社会や文化の一部とみなすように求め、帳簿に並ぶ無味乾燥な数字からでさえ、宗教的・文学的意味を読み取っていた。いつか必ず来る清算の日を恐れずに迎えるためには、こうした文化的な高い意識と意志こそを取り戻すべきである。