【概要】
著者(監督):俵万智
「この味がいいね」と君が言ったから七月六日はサラダ記念日
でおなじみだが、
「寒いね」と話しかければ「寒いね」と答える人のいるあたたかさ
などの有名な歌も多数収録。
ちゃんまち若き日の歌を収める。基本的な流れとしては、ちょっとワルい男と付き合い始めて、虚々実々の不安定な恋愛をして、そして別れる、というパターン。恋愛体質の待つ女(テレサ・テン)といったところ。ただ、悲壮感はなくカラッとしている印象。正岡子規だったらどう評するか気になる。いい意味で和歌・俳句の大衆化を助けたとは思う。
描かれる情景や感情や比較的明瞭で映像的・現代的。心理戦の中で日常的なモノが違和感なく入り込んでいるところが画期的だったのではなかろうか。
思いきり愛されたくて駆けてゆく六月、サンダル、あじさいの花
とか、
君の愛あきらめているはつなつの麻のスカート、アイスコーヒー
とか、
「嫁さんになれよ」だなんてカンチューハイ二本で言ってしまっていいの」
とか。
【詳細】
<目次>
- 八月の朝
- 野球ゲーム
- 朝のネクタイ
- 風になる
- 夏の船
- モーニングコール
- 橋本高校
- 待ち人ごっこ
- サラダ記念日
- たそがれ横丁
- 左右対称の我
- 元気でね
- ジャズコンサート・IMA
- 路地裏の猫
- いつもアメリカン
<メモ>
・八月の朝
寄せ返す波のしぐさの優しさにいつ言われてもいいさようなら
⇒早くも終わりを意識。
思い出の一つのようでそのままにしておく麦わら帽子のへこみ
⇒某海賊漫画主人公には到底なさそうなおセンチ感情。
君を待つ土曜日なりき待つという時間を食べて女は生きる
⇒待つ女であることを表明。
我がカープのピンチも何か幸せな気分で見おり君にもたれて
⇒すべてがほわほわしていく…。
オクサンと吾を呼ぶ屋台のおばちゃんを前にしばらくオクサンとなる
⇒なんか相手にはオクサンいそうな気がするんだよなあ…。
「寒いね」と話しかければ「寒いね」と答える人のいるあたたかさ
⇒有名。
同じもの見つめていしに吾と君の何かが終ってゆく昼下がり
⇒やっぱり永続性低め。
愛人でいいのとうたう歌手がいて言ってくれるじゃないのと思う
⇒絶対これテレサ・テン。
君を待つことなくなりて快晴の土曜も雨の土曜も同じ
⇒「八月の朝」の最初の歌が彼と海に行くものであることを考えると、恋の終わりを感じさせて悲しい。でも生きねばならぬ。
・野球ゲーム
まちちゃんと我を呼ぶとき青年のその一瞬のためらいが好き
⇒呼称不安定問題。距離もまだ不安定なのかも。
「嫁さんになれよ」だなんてカンチューハイ二本で言ってしまっていいの
⇒有名。逆にカンチューハイ何本ならいいんだ。
これからの二ヵ月のこと何もかも思い出として始まる二月
⇒ほらやっぱりすぐ終わり意識するじゃないですかあ~~~。
さよならに向かって朝が来ることの涙の味でオムレツを焼く
⇒生きねばならぬ。腹を満たさねばならぬ。
・朝のネクタイ
月曜の朝のネクタイ選びおる磁性材料研究所長
⇒墾田永年私財法、天皇皇后両陛下に通ずるものを感ずる。
妻のこと「母さん」と呼ぶためらいのなきことなにかあたたかきこと
⇒老夫婦。
・風になる
手紙には愛あふれたりその愛は消印の日のそのときの愛
⇒移ろいやすいんだなあ。
万智ちゃんがほしいと言われ心だけついていきたい花いちもんめ
⇒迷わずついていける恋をしなさいよ。
何してる? ねぇ今何を思ってる? 問いだけがある恋は亡骸
⇒基本的に不安定。
・夏の船
⇒大自然を前に卑小さを感ずる。
・モーニングコール
食パンとビールを買いにつっかけを履いて並んで日曜の朝
⇒土日しか会ってなさそう。
いつもより一分早く駅に着く 一分君のこと考える
⇒恋愛体質。
モーニングコールのあとのフランスパン一段とばしに昇れ階段
⇒日常の嬉しポイント探してくるの巧みすぎ。
・橋本高校
教室にそれぞれの時充たしおる九十二個の目玉と私
⇒1クラスの人数が多い。
青春という字を書いて横線の多いことのみなぜか気になる
⇒どう解釈する?
黒板に文字を書く手を休めればほろりと君を思う数秒
⇒やはり恋愛脳。
廊下にて生徒と交わすあいさつがちょっと照れてる今日新学期
⇒青春、それは君が見た―――。
「おやっ!?」ちう言葉流行りて教室の会話大方オヤッオヤッで済む
⇒後半カタカナなのが面白い。
・待ち人ごっこ
吾を捨ててゆく人が吾の写真など真面目にとっている夕まぐれ
⇒相変わらず終わり意識しすぎ~。
ため息をどうするわけでもないけれど少し厚目にハム切ってみる
⇒一見しょーもないが、生きていくたしかな強さを感ずる。
・サラダ記念日
地下鉄の出口に立ちて今我を迎える人のなきことふいに
⇒やはり許されぬ恋なのか。
君の愛あきらめているはつなつの麻のスカート、アイスコーヒー
⇒視点や関心の移動がみごと。
明日まで一緒にいたい心だけホームに置いて乗る終電車
⇒いなさいよ。
「この味がいいね」と君が言ったから七月六日はサラダ記念日
・左右対称の我
我が髪を三度切りたる美容師に「初めてですか」と聞かれて座る
⇒ギャグ枠。
初恋の人をまだ見ぬ弟と映画観に行く きれいでいたい
⇒姉やんは何を思う。
・元気でね
思いきり愛されたくて駆けてゆく六月、サンダル、あじさいの花
⇒連想・列挙が面白い。
金曜の六時に君と会うために始まっている月曜の朝
⇒成果物意識して仕事しすぎ。
カニサラダのアスパラガスをよけていることも今夜の発見である
⇒好きな男へ向ける観察眼。
7・2・3(なにさ)から7・2・4(なによ)に変わるデジタルの時計見ながら快速を待つ
⇒まず普通の完成してたら和歌にしようと思わんのだよ、こんなこと思っても。
・路地裏の猫
文庫本読んで私を待っている背中見つけて少しくやしい
⇒文庫本に敗北感を味わう。