【概要】
著者(監督):石田五郎
岡山が天体観測で最強だったころ。岡山天体物理観測所で過ごした一年間の日記。当時最新鋭だった188cm反射望遠鏡が最も輝いていた時代。研究者や観測員たちは僻遠の地で家族と別々に暮らし、泊まり込みで「宇宙を狙う砲手」となる。
ザ・昭和中期。FMつきレコード、碁、将棋、チェス、カード、花カルタなどの娯楽設備。『乾板かえたらかけこむトイレ』など天体観測のノウハウやコツを凝縮させたイロハガルタ。寒かったり暑かったり、調整や補修・メンテナンスに手間がかかったりと、不便ながらも古き良き時代の煌めきを感じられる。
著者、ティコ・ブラーエの紹介とか、『明月記』に超新星らしき記述があるとか、「風立ちぬ」の引用があるとか、(あとこの日記文学もそうだが)人文学的な素養をのぞかせる。ゲストの倉敷案内は鉄板だった模様(倉敷しか行くとこないんか)。
研究者のそれぞれが「私の星」をもっており、その星のイメージをいつも胸のなかにあたためている。観測―――この「私の星」との対話の時には、研究者はつねに孤独である。これを空しくして、「私の星」の問いかけを最大限に聞くこと、このために私たちは工夫と努力をかさねる。
【詳細】
<目次>
- 一月(元日;セレスの発見 ほか)
- 二月(光のすじの向こうの端の…;小宇宙 ほか)
- 三月(ドラムスコ;天文観測心得 ほか)
- 四月(モズラ;ワラビ採り)
- 五月(モズのひな;カーリュー・リヴァー ほか)
- 六月(メッキ作業;星の世界へ ほか)
- 七月~八月(台風襲来;ハギハラ・テレスコープ ほか)
- 九月(ドーム修理;ベーキング)
- 十月(初スバル;フラワー・カード ほか)
- 十一月(コリメーター;畑中忌 ほか)
- 十二月(リック天文台;ベテルギウス ほか)
<メモ>
解説にて。
すばる望遠鏡にはもう、写真暗室はない。岡山では観測の主役だった乾板もないし、地獄のニュートン焦点もない。五百トンのすばる望遠鏡は、自動的に天体を追いかける。二トンもある電子カメラがはるかに宇宙を旅してきた天体からの光を電流に変え、計算機がそれをデジタルデータとして蓄積し、 液晶のモニタ画面に精緻な画像を吐き出す。 観測者は、通常の六〇パーセントという薄い空気にあえぎながらではあるが、「極楽」のクーデ室よりはるかに大きな部屋のゆったりした椅子に座り、コンピュータと夜通しにらめっこするのだ。
★小ネタ集
- カノープス:見たら75日寿命のびる
- スペクトル型分類(Oh, Be...)
- U, B, V図
- 瀬戸大橋未だ成らず
- フレアスタックでアンタレスが見えにくいこともある。
- 望遠鏡、当時はヴィジター・システムでレンタル方式。世界の共有財産だった模様。
- galaxyが「小宇宙」と訳されていた時代。
- 曇ったら晴れ上がる<心配>がなくなるので、データ整理や計算をする。
そういえば…
2級合格しました(見込み)。みんなも受けてみよう!