【概要】
著者(監督):? 編:鈴木裕子
パパ「返す返す、とりかえばやと思されける」
それなりに有名だが意外と読まれていない古典代表格。ソフィア文庫なので有職故実や服装・調度品の図解あり。「君の名は。」で少し知られるようになったとか。なお突然「「入れ替わってる~~~!!!?」」となるのではなく、物心ついたときからすでに入れ替わっている。
内容は予想通り、生物学的性別と社会的性別を交換して生きるきょうだいの苦悩を描いているのだが、アイデア一発勝負で終わっていない。予想以上にストーリー展開(女君の妊娠とか、男君が女君の救出を決意するところとか)が面白かったり、きょうだい(特に女君)の苦悩に本質的な部分があったりと、深みがある内容だった。当時からジェンダーに違和感ある人がマイノリティでいたんでしょうなあ。個人的には友人の宰相の中将が男君(実は女)にムラムラして暴走しちゃうシーンが素晴らしかった。
後半できょうだいは再度役割を秘密裏に交換して栄耀栄華を極めるのだが、この結末をどうとらえるか。性格は後天的な環境やきっかけで変わるとみるか、生物学的な性に対応した社会的な性から逃れられないとみるか。
【詳細】
<目次>
- 悩める大納言の登場
- 内気な若君と活発な姫君
- 姫君(実は男君)の裳着
- 若君(実は女君)の加冠
- 宮の中将の登場
- 女君の結婚問題
- 偽装された結婚生活
- 女君の憂愁
- 男君、尚侍として出仕する
- きょうだいの合奏〔ほか〕
<メモ>
入れ替わり設定を利用して、男女2×2のいろんなパターンを網羅している。
- 男君(実は女君)と四の君の結婚生活⇒心身ともに単衣の隔たり
- 姫君(実は男君)と東宮のあやまち 「さるやうこそは」☜ねーよ 無知ゆえに
- 宰相の中将(女君の友達)と四の君のあやまち⇒妊娠 欲求不満
- 宰相の中将から姫君(実は男)へのアタック(未遂)
- 宰相の中将が男君(実は女)にムラムラ⇒あやまち⇒妊娠 ☜えっち
- 宰相の中将が男君(入れ替わり後)の鬚を見て呆然自失
〇えっちなシーン
なかでも、宰相の中将が男君(実は女)にムラムラするシーンは800年前とは思えないエロスが醸し出されていた。
(原文)
中納言の、紅の生絹の袴に白き生絹の単衣着て、うちとけたる容貌の、暑きにいとど色は匂ひまさりて、常よりもはなばなとめでたきをはじめ、手つき身なり、袴の腰引き結ばれてけざやかに透きたる腰つき、色の白きなど、雪をまろがしたらんやうに白うめでたくをかしげなるさまの、似るものなくうつくしきを…
(訳)
中納言の、紅の生絹の袴に白い生絹の単衣を着てくつろいでいるお顔が、暑さのせいでひどく上気して、いつもよりもはなやかで美しいのをはじめとして、手付きや体付き、袴の腰紐がぎゅっと結ばれてくっきり透けて見える腰付き、色の白さなど、まるで雪の玉を作ったように白く美しく魅力的なさまが比類ない美しさなので…
う~~~ん。えっち。
- きょうだいは個人的に双生児として読んだ(姉弟)。男君はなんだかんだ女としての前半生を楽しみ、女君は男として立身出世するも苦しむ。「われもとよりかやうにてあるべきものを」「世づかざりける身どもかな、われぞかくてあるべきかし」と互いの境遇のコレジャナイ感を嘆く。
- 大体の不思議は「前の世の物の報いなれば」「これもこの世のことならず、さるべき契りにこそはありけめ」ということで、前々前世の因縁や天狗のせいにされる。便利。
- メンター役の吉野山の宮の存在とか、先行する各種文学作品のオマージュとか、物語の文脈や系譜をなぞっている。
〇燃えたシーン
「男君、女君の救出を決意する」☜うおおおお!!!
- 女君は妊娠しストーリー的には行き詰まりを見せるが、男君はこの窮状を見かねて再度の入れ替わりを決意。瓜二つなので違和感はなく、「うつつともかたみにおぼえ給はず」。「人に見え知られ給ふな。ただあるさまにてを」と秘密保持もバッチリ(春宮以外)。最終的には男君は左大臣、女君は中宮に。栄耀栄華を極めるふたりだがその心は。
- いまさらだが声やら性徴はどうなっとるんや。あと管弦やら詩文やら有職故実やらの各種貴族の教養を男君はどこで身に着けたのか。☜こまけえことはいいんだよ!
- なお、話を転がす便利キャラの遊び人・宰相の中将(仮名)を超えるプレイボーイとして覚醒。男としても女としても人生を楽しんだ男。
〇せつないシーン
- 若君(子供)に正体を匂わせる女君
「ただ御心ひとつに、さる人は世にあるものと思して」
- 心や感情に関する表現には800年前の喜怒哀楽が匂っている。
「心の限り書き尽くし」「心に入れて吹きたてたる」
「泣くべき折はうち泣き、をかしく言ひたはぶるる折はうち笑ひ、いはん方なくにくからず愛敬づき給へる人」
☟古いので再視聴・加筆が必要。