【概要】
著者(監督):三戸岡道夫
日露戦争の実質的な最高指揮官・大山巌の生涯を小説として再構成。大西郷の正統な後継者として、日本陸軍の大将として、明治日本の元勲として密度の濃い人生を全うした。見ていないようでちゃんと見ている、考えていないようで考えている、といった薩摩的大将スタイルは学ぶところが多いかも。
沙河会戦の「戦でごわすか」事件のときに西郷の幻影が現れるのは、王道だが燃える展開であった。西郷隆盛、大久保利通、野津鎮雄・道貫、黒田清隆、西郷従道、伊藤祐享、東郷平八郎、山本権兵衛など薩摩の同時代人の元勲・陸海軍大将ラッシュにビビる。当時としては享年75歳と長命ゆえに西郷隆盛や西郷従道、児玉源太郎や明治帝に先立たれるのは悲しい。枕元に出現するのもベタだが〇。捨松さんとのナイスカポォも〇。
【詳細】
<目次>
- 序章 旅順攻防
- 第1章 維新回天
- 第2章 熱情奔流
- 第3章 忠義恩義
- 第4章 才女有情
- 第5章 雪中進軍
- 第6章 泣不如帰
- 第7章 臥薪嘗胆
- 第8章 智将謀将
- 第9章 日露激突
- 第10章 奉天大勝
- 第11章 凱旋将軍
- 終章 英雄帰郷
<メモ>
- 読みやすい。
- リーダー的資質(時代や組織によるが):茫洋、丁寧、動じない、理工系、実戦経験豊富、勇気、楽天的、海外経験豊富、舶来・新しもの好き、愛妻家、威張らない、現地民の人心収攬、柔軟性、合理性、任せて信頼する、政治に介入しない、冗談好き、部下の人心掌握、イライラしない、「知っていて、知らないふりをする」、敵を作らない、部下に使われる
- 兵器開発も陸軍大臣も軍事指揮官もやっていた稀代の逸材。位人臣を極め、日露戦争直前ではステータス的に上がりなのにここで一肌脱ぐカッコよさ。
- 日露戦争以外にも、兄貴分の西郷との戦い、明治帝からの激励など胸熱シーンあるよ。
- 則天去私。
- ほっこり事件:スイカ売り、「児玉さん一番」、「戦でごわすか」、「ふーん」「よか、ごわした」
日本陸軍にも強者の将軍は沢山いる。だが、幕末の寺田屋騒動に始まり、薩英戦争、戊辰戦争、西南戦争、そして日清戦争までをもその最前線で経験し、しかも元老として圧倒的な存在感を示しているのは、おそらく大山巌ただ一人だろう。
復命書
「客歳六月、満州軍総司令官たるの大命を奉じ、爾来、遼陽に敵の戦略要地を奪い、沙河にその南進の鋭鋒を挫き、旅順に堅城を陥れ、黒溝台に敵の大企図を推き、奉天に大軍を撃砕し、その他大小交戦数十回、一として戦捷を博せざるなく、以て開戦当初の目的を達するを得たるは、ひとえに陛下の御稜威と将卒の忠勇に依らずんばあらず」
読み上げる大山巌の声は高からず低からず、また昂るでもなく、沈鬱でもなく、ただ淡々と、しかし心をこめて、丁寧に読み進められた。
銃後の支援、海軍への称賛、死傷者への悼みも述べ、
「尚、各軍に於ける作戦の概況は、その凱旋に応じ、当該軍司令官をして奏上せしむ。右謹みて復命す」
と、読み終えた。
厳はついに、自身の登場を決意した。
軍服を着て、ドアを出ようとノブに手をやった。が、その時、
(待ってたもんせっ)
厳の頭に、ズンと響く声が聞こえた。
(弥助どん、待つんじゃ)
その声は、間違いなく、西郷吉之助の声だった。
吉之助は言った。
(弥助どん、大将ちゅうのは、本陣に味方がいなくなって、自分を守ってくれる者も数騎しかいない時でも、じっと床几に腰を落ちつかせておるもんじゃ)
(兄さぁ。じゃっどん、いまおいが出ていかねば、児玉たちは自滅してしまう)
(弥助どん、皆の前に出ていけ。そして、大将としての務めを果たせ)
山縣の「沈黙寡言を以て…」評がおもしろい。
<その他リンク>