【概要】
著者(監督):加藤文元
「宇宙際タイヒミュラー(IUT)理論」の一般向け解説本。ブルーバックスあたりに比べるとかなり平易で読みやすいと思われる。IUT理論、数学観のパラダイムを根底から覆す衝撃を数学界に与えた模様。
楕円曲線や素数関連の未解決問題、群論などに寄り道しながら徐々にクライマックスに至る感じにはどきどきしたのだが、結構あっさりと終ってしまった感もあり物足りなさも。わかったようなわからないような感じは一般向け解説書の限界か。理工系学徒としては若干物足りないかも。だが、百万遍焼肉の思い出には親近感を抱いたことは間違いない。
2020/4/3に掲載されたようだが、こんなにタイムリーに読んだのも何かの縁かも。
【詳細】
<目次>
- 第1章 IUTショック
- 第2章 数学者の仕事
- 第3章 宇宙際幾何学者
- 第4章 たし算とかけ算
- 第5章 パズルのピース
- 第6章 対称性通信
- 第7章 「行為」の計算
- 第8章 伝達・復元・ひずみ
<メモ>
IUT理論のやろうとしていること
- たし算とかけ算の絡み合いという正則構造を打破するために、複数の数学舞台を設定すること
- それらの舞台の間の関係を構築するために、「対称性通信」をすること
- そして、その対称性通信という「壁超え」を可能にし、正確な通信を実現するために、十分に複雑な構造をもつ群による「遠アーベル幾何学」を応用すること。
IUT理論の解説というよりも、数学の沃野や数学者という生き方の紹介のように感じられた。日本に拠点を置いていることや、「一蓮托生」という言葉の使用を見ると、やはり望月教授の心の根は東洋にあるのかも。井筒俊彦のように。
望月教授曰く、
「安直な確定性」への欲求から生じる社会の矛盾を炙り出し顕在化させ、その矛盾を乗り越えるための方向性を指し示す、「心の道しるべ」としての役割を果たすことが、真に革新的な内容を掲げた純粋数学の最も本質的な存在意義、ひいては「応用」と考えるべきではないでしょうか。
<おもひで>
当時、百万遍交差点の近くに美味しい焼肉屋があり、我々はそこが一番のお気に入りでしたので、毎回そこに通いました。毎回同じ焼肉屋に行き、毎回同じメニューを注文するのです。私の記憶では、そのメニューとは以下の通りでした。カルビ、ハラミ、豚トロ、鶏の柚胡椒焼き、白ネギ。白ネギだけは必ず二人分で、それ以外は一人分です。そして私は生ビールを注文し、彼は中ライスを必ず注文しました。
数学とは
数学とは、いわば、長い歴史の中で次々に創造され、破壊され、乗り越えられてきた多くの分野や枠組みの集合体だとも言えます。それら多くの、互いにまったく異なった学問のようにさえ見えてしまう枠組み・理論の総体が、現代の我々が「数学」と呼んでいる学問なのです。それは単一の分野的学問というよりは、驚くほど数多くの学問領域と、それらを横断するネットワークから構成されている、複雑で多様な体系です。中学や高校で勉強した数学を思い出してみてください。そこには図形もあり、数もあり、関数もあり、ベクトルもあり、数列や確率まで、極めて多種多様な対象や概念がひしめき合っています。数学とは、それら多種多様な対象や概念が相互に入り乱れる《異種格闘技戦》なのです。これほど多くの、互いにまったく異なって見える概念を扱っている学問は、おそらく数学をおいて他にはないのではないでしょうか?
<記事他>
著者。
望月教授の不思議HP。