【概要】
著者(監督):橋本幸士
素粒子物理学者のエッセイ集。名文家の寺田寅彦や湯川・朝永、ファインマンあたりの系譜と理解。「お好み焼き屋往復路のヒステリシス」「うまい棒を東京ドームに詰め込んだらいくらになるか」などの思考実験的な話が多い。毎回オチがついているのはさすが。
【詳細】
<目次>
- 第1章 物理学者の頭の中
エスカレーター問題の解/無限の可能性
数字の魔力/ギョーザの定理
経路積分と徒歩通勤/スーパーマーケットの攻略 - 第2章 物理学者のつくり方
数学は数学ではなかった/レゴと素粒子物理
迷路を書き続ける/黒板の宇宙
シャーロック・ホームズ/鉄道から宇宙へ - 第3章 物理学者の変な生態
奇人変人の集合体/理学部語
かな漢字変換/歩数計を欺く
ニンニクの微分/研究という名の麻薬
<メモ>
エッセイに入る前に本書の「使用上の注意」などがあり、基本的にボケ倒している。
「無限」の意味、4桁10つくろうゲーム、素粒子物理畑の人らしく近似の許容オーダーが広め、身近な科学的事象に興奮しがち、お好み焼き屋往復路のヒステリシス、レゴブロックの効能、うまい棒を東京ドームに詰め込んだらいくらになるか、幼少期の自由帳迷路、大学への数学に取り組んだ日々、メガネによる解像度アップ、近似に至福の喜びを感じる、スーツケースのタイル通過音、数学記号を「この人」と呼んでしまう、などなど。個人的には理工系あるあるが多く、かなり共感できるエッセイ集であった。
物理学者である僕が、こうやってエッセイを書いていることも、初期値を少しずらすような「カオス」を試しているということなのだから、これからどんな風に人生が転がっていくか、興味深い。まあ、自分の人生だから、興味深いのも当たり前ではあるけれども。
カオス的な人生に、乾杯。
文体が軽妙洒脱で毎回しっかりオチがついているので読みやすい。妻とは漫才をしているのか? 時折「散歩の夜空は、古代ギリシャの夜空、そして太古の人類の夜空まで、確かにつながっていた」などと詩的になることも。
毎日、適切なタイミングで僕を世界に引き戻してくれる妻に、この場を借り心から感謝したいと思います。
所属した/している京大的研究室がおもろくていい感じ。
とにかく、僕はこの研究室が大好きだった。物理学の話題では時間を忘れて議論し合う。先輩と後輩、学生と教員の区別なく自由に意見を出し合う。朝まで計算し、結果を比較し合う。そこには、風貌や素行、常識の垣根は一切なかった。
常識を捨てることをナチュラルにやっている先輩たちを心から尊敬した。それは、そんな先輩たちや先生から、驚くべき新理論が生み出される瞬間を何度も見てきたからだ。そうやって、素粒子理論の潮流が誕生し増幅され、科学が進んでいく。奇人の先輩方は今、日本の主要大学で教鞭をとり、科学を支えている。今週も、素粒子の性質を予言する新理論の論文を奇人先輩が発表し、楽しく読んだところである。
生活と科学を一体にすること、それがあらゆる意味で実現している研究室。その日々は、今でも続いている。