【概要】
著者(監督):藤沢周平
(上)米沢藩主上杉鷹山の一代記。藩内クーデターと火の車財政が印象的な上巻。のちの鷹山はいまだ雌伏のとき。人を動かす難しさ、改革を断行する難しさを感じられる。守旧派を排除し、いざ財政立て直しのお手並み拝見といったところで下巻へ。
硬派で人情味ある文体と堅実で慎重な話運びが著者らしい。人口や石高データなどに話作りの地道な努力の影を見る。
(下)改革の狼煙を上げるも、当綱の失脚や不作、普請手伝いにより改革は道半ばで暗礁へ。長い停滞と退廃を経て、緊縮財政が行き詰まったところで改革第二波の熾火が燃え上がる。が、残念ながら著者逝去により未完に了る。消化不良。
幕府、上士・下士、百姓、豪商など、いろいろな利害関係者とやりあった藩主や宰相の多忙と孤独、そして人心掌握の秘訣を掴めるのでは(共に取り組むこと、逃げないこと)。絶望的な台所事情の中、為政者の務めを投げ出すことがなかった者たちの精神性には感銘を受けた。
あとがきが時代小説(江戸時代)の要点を言い得て妙。
「若い下級武士たちの清涼な挙止と女たちのさわやかなたたずまいとが織りなす小説は、おさえがたい経済成長の流水の上に描かれた一幅の画であるということもできる」
【詳細】
力に訴えても反対派を排除すること、逃げずに腰を据えて取り組むこと、経済振興策と士風鼓舞のバランス、主君と宰相のコンビネーション、上と下の意識のギャップ、領民との一体感の演出、新事業計画の地道な実行、開かれた人材登用、投資計画と金策、米本位制から金銀本位制への移行、武士の没落と商人の成長など、描かれた内容は多岐にわたる。
治憲から言えば、天下国家のことにしろ、一藩のことにしろ、政治とはまず何よりも先に国民を富まし、かれらにしあわせな日々の暮らしをあたえることである。
受次て国のつかさの身となれば 忘るまじきは民の父母
為せば成る為さねば成らぬ何事も 成らぬは人の為さぬなりけり