評価:B+
【概要】
自伝的な『大導寺信輔の半生』から『歯車』に至る著者晩年の作品を収録。冷笑と虚飾と絶望に満ちた物語の至る所に、頭でっかち近代的知識人の精神的破綻が冷徹に点綴されており、しんどい。
【詳細】
暗い自伝的小説『大導寺信輔の半生』、暗澹とした心理戦『玄鶴山房』。
似ているようでズレている奇妙な空想世界を描いた『河童』。
でもやっぱり、以下2作かな。
『或る阿呆の一生』。僕の阿呆さ加減を笑ってくれ給え。
彼の将来は少くとも彼には日の暮のように薄暗かった。彼は彼の精神的破産に冷笑に近いものを感じながら、(彼の悪徳や弱点は一つ残らず彼にはわかっていた)不相変いろいろの本を読みつづけた。
彼は最後の力を尽し、彼の自叙伝を書いて見ようとした。が、それは彼自身には存外容易に出来なかった。それは彼の自尊心や懐疑主義や利害の打算の未だに残っている為だった。彼はこう云う彼自身を軽蔑せずにはいられなかった。
彼は唯薄暗い中にその日暮らしの生活をしていた。言わば刃のこぼれてしまった、細い剣を杖にしながら。
不気味で異常な、死を前にした不安感を滲ませた『歯車』。
何ものかの僕を狙っていることは一足ごとに僕を不安にし出した。そこへ半透明な歯車も一つずつ僕の視野を遮り出した。僕は愈最後の時の近づいたことを恐れながら、頸筋をまっ直にして歩いて行った。歯車は数の殖えるのにつれ、だんだん急にまわりはじめた。
誰か僕の眠っているうちにそっと絞め殺してくれるものはないか?読んでいるとこっちがおかしくなりそうだ。