Javaさんのお部屋(サム・ジーヴァ帝国図書館)

Javaさんのお部屋です。引っ越しました。詳しくは「はじめに」を読んでね。スマホ版は全体像が見えにくいから、PC版と切り替えながら見てね。

中原中也詩集

著者:中原中也
評価:A

【評】
『山羊の歌』『在りし日の歌』+未刊詩篇を収録
『汚れつちまつた悲しみに……』、
『サーカス』『生ひ立ちの歌』『骨』『正午』など名品が並ぶ。 

繊細で、清いけれどももの悲しい彼の詩を、茲に一部抜粋する。

【詩的表現編】

飛んでくるあの飛行機には、
昨日私が昆虫の涙を塗つておいた。
『逝く夏の歌』
昆虫って泣くのですね。
朝、鈍い日が照つてて
  風がある。
千の天使が
  バスケットボールをする。
『宿酔』
まさかの組み合わせですね。
をりしもかなた野のうへは
あすとらかんのあはひ縫ふ 古代の象の夢なりき
『含羞』
象も夢をみるのです。
黒い夜草深い野にあつて、
一匹の獣が火消壺の中で
燧石を打つて、星を作つた。
冬を混ぜる 風が鳴つて。
『幼獣の歌』
ロマンチックですね。
彼女は
壁の中へ這入つてしまつた。
『或る男の肖像』
異能力者ですね。


【穏やか編】

夏の空には何かがある、
いぢらしく思はせる何かがある、
  焦げて図太い向日葵が
  田舎の駅には咲いてゐる。
『夏の日の歌』
 夏、入道雲、向日葵、田舎の駅…。みんな大好きなモティーフですね。
神社の鳥居が光をうけて
楡の葉が小さく揺すれる
夏の昼の青々した木陰は
私の後悔を宥めてくれる
『木陰』 
夏、好きなんですね。

昔私は思つてゐたものだつた
恋愛詩なぞ愚劣なものだと

けれどもいまでは恋愛を
ゆめみるほかに能がない
『憔悴』 

戀が貴方を變へてしまひましたね。
ポカポカポカポカ暖かだつたよ
岬の工場は春の陽をうけ、
煉瓦工場は音とてもなく
裏の木立で鳥が啼いてた
『思ひ出』 
文字だけなのに暖かそうな心持にさせられますね。
打水が樹々の下枝の葉の尖に
光つてゐるのをいつまでも、僕は見てゐた
『残暑』 
いつまでも、どこまでも。
かくて、人間、ひとりびとり、
 こころで感じて、顔見合せれば
につこり笑ふといふほどの
 ことして、一生、過ぎるんですねえ
『春宵感懐』
そんなもんでしょうねえ。
あんまり晴れてる 秋の空
赤い蜻蛉が 飛んでゐる
淡い夕陽を 浴びながら
僕は野原に 立つてゐる
『蜻蛉に寄す』 
沈む夕陽を、ただ見つめていたんでしょうねえ。
燃ゆる山路を、登りゆきて
頂上の風に吹かれたり。

風に吹かれつ、わが来し方に
茫然としぬ、……涙しぬ。
『夏と私』
ふと泣いてしまうこともありますね。
芝生のことも、思ひ出します
 薄い陽の、物音のない昼下り
あの日、栗を食べたことも、思ひ出します
『別離』  
ささやかな思い出を、つぶれるほど抱きしめましょう。