Javaさんのお部屋・改

Javaさんのお部屋です。引っ越しました。詳しくは「はじめに」を読んでね。スマホ版は全体像が見えにくいから、PC版と切り替えながら見てね。

自選 大岡信詩集


著者(監督):大岡信

【概要】
繊細さと強さが同居した現代詩集。
シュールにならない程度に物語性があるのが良い。

【詳細】
『夢の散策』
遥かに みちひたひたと霧にまじはり
渡しのからだはあとをひいてながれていつた
よろこびもかなしみも乳白色にうすれはてて
あをざめた優しさのみが あしたの夢に匂つてゐた

『寧日』
或日、ふと世界は壊れ……
お前は支へを失つた。別離は不意にやつてくる。それはお前の胸のうちに、純金のやうな記憶ばかり残してゆく。思いけれども輝いてゐる。輝くけれどもやつぱり重い。

『明るくて寂しい人に』
純粋のはてへ腕を拡げた少年の日に
僕の心は怒っていた、針尖のようにちかちかしながら
僕の心はうずいていた、刺客の夢を夢みながら
武装して僕は密かに待っていた、あなたを、あなただけを

『青春』
あてどない夢の過剰が、ひとつの愛から夢をうばった。おごる心の片隅に、少女の額の傷のような裂目がある。突堤の下に投げ捨てられたまぐろの首から吹いている血煙のように、気遠くそしてなまなましく、悲しみがそこから吹きでる。

『我が詩と真実』
ひとつの唇が他の唇と出会うとき
一つのかたくなな世界が壊れ
新らしい唾液が世界ののどに溢れるのは 私の真実

『風の説』
石はせせらぎに浣腸される。
石ころの括約筋のふるへ。
石ころの肉の悩みのふるへ。

『水の皮と種子のある詩』
窓に切られた空も
千萬の鳥を容れるに足る
夢に見た光と
午後は韻をふんで語りたい

『薤露歌』
きみの死は
かうしてきみの生きた言葉を
おれの中へもういちど植ゑなほすのだ

『少年』
松林では
仲間ッぱずれの少年が
騒ぐ海を
けんめいに取押えてゐる
ただ一本の視線で

『きみはぼくのとなりだつた』
ぼくはひとり きみのいのちを生きてゐた

『調布 Ⅴ』
まちに住むといふことは
まちのどこかに好きな所を持つといふこと。
まちのどこかに好きな人がゐるといふこと。
さもなけりや、暮らしちやいけぬ。

『序詩』
ただ一度でいい
わが詩のなかに閉じこめたいと願つてゐる

幼い子が仔猫とならんで
草の葉に宿る露を
じつと見あげて動かない
あの無防備
見てゐる者を悲しくさせる
何も語つてゐないほど深いまなざし

『巻の三六 四季のうた』
生類の死が
どんどん上から流れてきても
時の河は末の末まで
人を超えたコトバでの流れでできてゐる

『凧の思想』
地上におれを縛りつける手があるから
おれは空の階段をあがっていける

『母を喪ふ』
渡り鳥が消えたあとへ
一筋の飛行機雲
その雲の遥か上へ
おふくろのおれを呼ぶ声が
鐘といつしょに昇つていつた

八十過ぎても
張りのある呼び声だつた
声は決して持ち主を裏切らない

『水の生理』『花Ⅰ』
『黙府』『詩府』『13 過ぎてゆく島』も良い。

三角行列風の文字の並びや、ゆらめく文字列。
「壁にピンでとめられた昆虫」のように力を喪くす、「上澄みのような」遠い朝、などの表現、印象的だった。