あしたわたしが死んでも。消えないのか…?
わたしの仲間の名前は…この文字が、
憶えていてくれるのか。
……ユルール。
――それが…
…それが、文字なのか。
- スドーにとってはこっちが現実? スドーのやさしさと笑顔が読者にとっても清涼剤だったりする。
- ぞくぞく登場する人物、敵味方を行き来するユルールやハラバルに悩まされる。
- グルグル目や水彩画風のカラーページ、セリフ中のひらがな(「きみ」「おれ」)が印象的。
- 倒した敵の武器継承、虎と狼の共闘はアツい。
<名言集>
1-67<ユルール>
みんな焼けてしまった。
たぶん…百年 二百年伝わったものも。
1-196<ユルール>
草原には文字はない。
強いときは生きて弱いときは死ぬ。
草原では心は留まらない。
想いも約束もすべて忘れられくりかえされていく。
―――文字は、人を憶えておくために生まれた。
遠くにあっても、時を越えても、
人と人とが交わした心を伝え続ける……
だから、心底美しい。
おれはあこがれる――
2-44<シュトヘル>
弱まる鼓動が聴こえる…
流す血が尽き、
モンゴルの心臓が止まるまで。
噛み殺し続けてやる。
わたしは、きさまらに憑いた悪霊だ。
2-83<ユルール>
殺されるのは怖いよ。
…本当に怖い。
だけど文字が殺されていくのは、
もっと怖い。
2-176<シュトヘル>
あしたわたしが死んでも。消えないのか…?
わたしの仲間の名前は…この文字が、
憶えていてくれるのか。
……ユルール。
――それが…
…それが、文字なのか。
4-60<吉祥山>
――血や一族のみを守るならば人間は、
永遠に縄張りを奪い合うだけの獣ではないか。
8-10<シュトヘル>
ユルール。
生きているというのはふしぎなことだなあ…
ふれて、かいで…
…声をきいて、目を見て――
おまえといる。
もうほかに望むことは何もない。
8-179<ユルール>
…あの人の指が、
あの人の指がそれをなぞったとき、
そのときからこれはおれの文字だ。
この文字でしかあらわせないものがあって、
この文字でしかあらわせない心がある。
9-182<シュトヘル>
だめだ。誰かに出会え。
…出会いが生きなおさせる。
10-33<ナラン>
父上大ハンは空間と距離を呑み干さんとし――
ユルールは時間を越えたがる。
10-128<ユルール>
出来事と心だ。
ナラン、いつか…
誰もが自分の出来事と心を記したなら。
それを集められるだけ集めれば…
そのかたまりは誰のものでもなく、何色にもならない。
その出来事と心のかたまりで、
時代というものさえ読めるようになるかもしれない。
文字で記すのは、
――出来事と心なんだ…
12-186<ユルール>
母の国 西夏の文字が消えてほしくない――
ただの小さな望みに、
シュトヘルは心をふるわせてくれた。
スドーきみは信じる拠り所になってくれた。
シュトヘルときみ ふたりにと会えたことがおれの身をめぐる力だ。
今も――きっと死ぬまで。
スドー。
手をかたく握るきみのあいさつがなつかしい。
13-172<ハラバル>
おまえと駆けたのは愉快だった。
13-189<ユルール>
おれはただ きみが好きだ。
欲しいものはあしたにしかない。
未来あしたにしか。
それでも、シュトヘル。
今ここにいるきみが。
きみといる今が。
きみが…。きみが好きだ。
14ー194<ユルール>
また会えたね、スド――
きみがおれを生かしたわけが今はわかる。
はじめは恨んだけれど。
記された文字はそれだけでは語らない。
人が、ふれて―――そこに、
出来事と心が生き返る。何度でも。
だから、人を
いつも静かに文字は待っている。