Javaさんのお部屋(サム・ジーヴァ帝国図書館)

Javaさんのお部屋です。引っ越しました。詳しくは「はじめに」を読んでね。スマホ版は全体像が見えにくいから、PC版と切り替えながら見てね。

グッド・バイ


著者(監督):太宰治

【概要】
故郷や出自、新時代や女性への失望・恐怖が饒舌に織りこまれた短編・戯曲16篇を収めた。
『美男子と煙草』の「これからどんどん生長しても、少年たちよ、容貌には必ず無関心に、煙草を吸わず、お酒もおまつり以外には飲まず、そうして、内気でちょっとおしゃれな娘さんに気永に惚れなさい。」目当てで読んだが、意外と他の短編も面白い。さすが太宰。自己憐憫、自己陶酔、自己欺瞞諧謔と混練されている。

【詳細】
前半は自伝的。子煩悩で頼りないダメ夫の疎開前後の生活が描かれる。
家の焼跡を眺め、眼病に罹った子供を連れ、めまぐるしく変動する戦中・戦後のつつましい生活を描く。

『苦悩の年間』 
私は、純粋というものにあこがれた。無報酬の行為。まったく利己の心の無い生活。けれども、それは、至難の業であった。私はただ、やけ酒を飲むばかりであった。
私の最も憎悪したものは、偽善であった。

『十五年間』
全部を、書いて置きたい。きょう迄の生活の全部を、ぶちまけてみたい。あれも、これも、書いて置きたい事が一ぱい出て来た。

しかし、私は小説を書く事は、やめなかった。もうこうなったら、最後までねばって小説を書いて行かなければ、ウソだと思った。それはもう理窟ではなかった。百姓の糞意地である。

好きで嫌いなものを語るときはやっぱり饒舌になる。
「わざとくにゃくにゃとからだを曲げ、ことさらに、はにかんで見せ」「うふふと笑ってやにさがり」
「ねばねばして、気味が悪い」などの自己憐憫・自己愛を見せつけるのも見逃せない。

『男女同権』
それにしても、女の人のあの無慈悲は、いったいどこから出て来るのでございましょう。私のそれからの境涯に於いても、いつでもこの女の不意に発揮する強力なる残忍性のために私は、ずたずたに切られどおしでございました。

へんな事を言うようですが、私はこれでも、結婚にあたって私のほうから積極的に行動を開始した事は一度も無く、すべて女性のほうから私のところに押しかけて来るという工合で、いや、でもこれは決してのろけではございません。女性には、意志薄弱のダメな男をほとんど直観に依って識別し、これにつけ込み、さんざんその男をいためつけ、つまらなくなって来ると敝履の如く捨ててかえりみないという傾向がございますようで、私などはつまりその絶好の獲物であったわけなのでございましょう。

冬の花火
いつから日本の人が、こんなにあさましくて、嘘つきになったのでしょう。みんなにせものばかりで、知ったかぶってごまかして、わずかの学問だか主義みたいなものにこだわってぎくしゃくして、人を救うもないもんだ。

『女類』
からだがちがっているのと同様に、その思考の方法も、会話の意味も、匂い、音、風景などに対する反応の仕方も、まるっきり違っているのだ。女のからだにならない限り、絶対に男類には理解できない不思議な世界に女というものは平然と住んでいるのだ。

「しかし、日本は、やっちゃったのだ」「あのころは、よかった。」「優しすぎるわ、よすぎるわ」「こいを、しちゃったんだから」「くさい。」など、懐に入るセリフや文体もすばらしい。

『美男子と煙草』
これからどんどん生長しても、少年たちよ、容貌には必ず無関心に、煙草を吸わず、お酒もおまつり以外には飲まず、そうして、内気でちょっとおしゃれな娘さんに気永に惚れなさい。

そして『眉山』で泣かせ、『グッド・バイ(未完)』で引き込んで終了(人生も)。
稀代のストーリーテラーであったことだなあ。