Javaさんのお部屋(サム・ジーヴァ帝国図書館)

Javaさんのお部屋です。引っ越しました。詳しくは「はじめに」を読んでね。スマホ版は全体像が見えにくいから、PC版と切り替えながら見てね。

アドルフに告ぐ

アドルフに告ぐ 1

【概要】
著者(監督):手塚治虫

3人のアドルフと彼らに人生を狂わされた者たちの大河ドラマ的群像劇。サスペンス+アクション劇といった感じ。機密情報を隠し通し協力者と情報交換するドキドキ感、親友が仇敵同士となる修羅道、男を伴走者となる女たち(小城先生、エリザ、由季江、三重子など)、ヒトラーゾルゲといった歴史上の人物を登場させることによる重厚感、そして手塚お気に入りのオリキャラ・ランプ氏やスパイダー…壮年期手塚の総決算といった趣がある。

戦間期第二次世界大戦、そして中東戦争まで…人間の殺し合いは終わることはない。でも、峠さんが言っているように人間賛歌的要素はつかみ取れたぞい。

誰も彼も……
日本中の人間が戦争で大事なものを失った……
―それでもなにかを期待してせい一杯生きてる 人間てのはすばらしい

 

【詳細】
<メモ>

  • "Der Führer ist Jude!!!"ということで、アドルフ3名が歴史の渦に飲み込まれ/んでいく。殺す側と生かす側に分かれたアドルフ。人種を越えたかつての少年たちの交遊も今は昔。いずれも憎しみに取りつかれ修羅道に落ちるのは悲しい。特にアドルフ・カウフマン君の葛藤と変容がなかなか衝撃的であるなあ(恋と殺人、カミルパパをはじめとするユダヤ人殺戮に対する良心の呵責とか、峠が義父になってたりとか、助けたエリザがカミル君と婚約してたりとか)。カミルパパ銃殺したりエリザちゃん襲ったり。関西弁を喋っていたユダヤ人のカミル君も人殺しの道へは行っちゃうのよね。
  • ヒトラーの複雑で屈折した内面が、彼のくねくね動作やセリフ中のブツブツ小さい手書き文字で表現されている。曰く、「途方もなく孤独」。
  • 峠さん、めっちゃ頑丈。ゲシュタポ特高に追われながら機密文書を守るハードボイルド・サスペンス。地下活動のドキドキ感や情報ネットワークの妙に感嘆せよ。結局文書は役立たずだったのだが…。
  • 史実の人物としては、ヒトラーのみならずゲッベルスゲーリングエヴァ・ブラウン、そしてゾルゲも登場。略年譜もあり大河ドラマ感が醸し出されている。
  • 小城先生、エリザちゃん、由季江さん、三重子さんといったイイ女ももちろん登場。仁川警部、ええおっさんやったなあ。娘の三重子が本田君に惹かれちゃうのはさもありなんやったなあ。
  • 御用達キャラのスパイダーの「おむかえでごんす」、別のコマを突き破る表現など、遊び心も忘れていない。
  • 終盤にその数を増す空襲描写の滅び感は三島文学を彷彿とさせる。手塚も同時代人だからなあ。
  • 1983年に峠さんがカミル家を訪れて『アドルフに告ぐ』の出版について語るのは希望を感じられるのでよいですな。峠さんの物書き設定がここで生きる。

そしてランプ氏、おまえが総統殺るんかーい(; ・`д・´)

tezukaosamu.net

 

トーゲさん

どの人種が劣等だとかどの民族が高級だとか…
あおりたてるのはほんのわずかなひとにぎりのオエライさんさ…

 

アドルフ・カウフマン君

いったい今まで何を演じてきたんだ?
このおれは……アドルフ・カウフマンは道化でござい!!

 

パレスチナ解放戦線の人

皮肉なもんだなあ ナチの残虐に追われていたユダヤ人が
今じゃナチス以上に残虐行為をくり返し…
きみのようにナチスだった男がパレスチナ解放のためにわれわれと共に闘ってくれるなんて

 

トーゲさん

誰も彼も……
日本中の人間が戦争で大事なものを失った……
―それでもなにかを期待してせい一杯生きてる 人間てのはすばらしい

 

トーゲさん

いや…わしはこの物語を世界中の何百万といるアドルフ名の人間に読んでもらいます
題も「アドルフに告ぐ」とするつもりです
その何百万人ものアドルフが息子たちに読ませる…
そしてその息子が孫のアドルフに…
やがて世界中の何千万の人間が…
正義ってものの正体を少しばかり考えてくれりゃいいと思いましてね…
つまんない望みですが