Javaさんのお部屋(サム・ジーヴァ帝国図書館)

Javaさんのお部屋です。引っ越しました。詳しくは「はじめに」を読んでね。スマホ版は全体像が見えにくいから、PC版と切り替えながら見てね。

ろまん燈籠

著者:太宰治
評価:B+

【評】
書簡体や告白体、語り調を駆使し、
何でもないような日常の一齣を文学に昇華させていく。
『佳日』『十二月八日』などが良かったかな。
戦時中にただひとり、文学の灯を支えていた事実こそ、彼がただの無頼漢ではない証左だ。

「東北人のユウモアは、とにかく、トンチンカンである」
「女の子から黙殺されるのは、私も幼少の頃から馴れていますので」
「笑って下さい。逃げもかくれもせずに、罰を受けます。いさぎよく御高覧に供する次第だ。それにしても、どうも、こいつはひどいねえ」
「私は今だってなかなかの馬鹿ですが、そのころは馬鹿より悪い。妖怪でした」

などと、うれしそうに自分の行動や習癖をこき下ろすのも、
もはや太宰製作所伝統芸能の感がある。
滑稽で奇妙で哀れ、そんな自分が実は好き、
君だけに教えちゃおう、私の秘密。

「愚問を発する人は、その一座の犠牲になるのを覚悟して、ぶざまの愚問を発し、恐悦がったりして見せているのである。尊い犠牲心の発露なのである」
「世の中は、おかしなもので、自己の知っている事の十分の一以上を発表すると、その発表者を物知りぶるといって非難する」

など、人間心理の真理に関しても自説をときおり披露するので侮れない。

『ろまん燈籠』
文学兄弟姉妹がリレー小説する。
万事窮して、とうとう悪事をたくらんだ。剽窃である。これより他は、無いと思った。

『みみずく通信』
太宰が講演する。
君は、今まで何も失敗してやいないじゃないか。駄目だかどうだか、自分で実際やってみて転倒して傷ついて、それからでなければ言えない言葉だ。何もしないさきから、僕は駄目だときめてしまうのは、それあ怠惰だ。

『服装に就いて』
自嘲しつつも
何の意味も無く、こんな派手ともなんとも形容のできない着物を着て、からだを、くにゃくにゃさせて歩いていたのかと思えば、私は顔を覆って呻吟するばかりである。

とにかく私は、もっと生きてみたい。謂わば、最高の誇りと最低の生活で、とにかく生きてみたい。

『誰』
借金申込み手紙の添削や読者のお見舞いなど、
キザにかっこつけるも世界に嗤われるあたり、もはや伝統工芸の感がある。

『新郎』
『十二月八日』のA面。
一日一日の時間が惜しい。私はきょう一日を、できるだけたっぷり生きたい。私は学生たちばかりでなく、世の中の人たち皆に、精一ぱいの正直さで附き合いはじめた。

このごろ私は、毎朝かならず鬚を剃る。歯も綺麗に磨く。足の爪も、手の爪も、ちゃんと切っている。毎朝、風呂へはいって、髪を洗い、耳の中も、よく掃除して置く。鼻毛なんかは、一分も伸ばさぬ。眼の少し疲れた時には、眼薬を一滴、眼の中に落して、潤いを持たせる。

『十二月八日』
それを、じっと聞いているうちに、私の人間は変ってしまった。強い光線を受けて、からだが透明になるような感じ。あるいは、聖霊の息吹きを受けて、つめたい花びらをいちまい胸の中に宿したような気持ち。日本も、けさから、ちがう日本になったのだ。

「大丈夫だから、やったんじゃないか。かならず勝ちます。」
主人の言う事は、いつも嘘ばかりで、ちっともあてにならないけれど、でも此のあらたまった言葉一つは、固く信じようと思った。

『小さいアルバム』
とても厳粛な筈の記念撮影に、ニヤリと笑うなどとは、ふざけた話だ。不謹慎だよ、どうして、こうなんだろうね。
 
既に間抜けの本性を暴露している。これもやはり高等学校時代の写真だが、下宿の私の部屋で、机に頬杖をつき、くつろいでいらっしゃるお姿だ。なんという気障な形だろう。くにゃりと上体をねじ曲げて、歌舞伎のうたた寝の形の如く右の掌を軽く頬にあて、口を小さくすぼめて、眼は上目使いに遠いところを眺めているという馬鹿さ加減だ。