【概要】
著者(監督):遠藤周作
太宰の『パンドラの匣』みたいに、主人公が入院する。
出征していないこと・生き残ったことへのうしろめたさ、入院中の心境や手術の描写、他の入院患者や看護婦・妻との交流には著者の経験が生きている模様。
『沈黙』のパイロット版といった感じがあるが、キリスト踏絵像や長崎の登場は唐突か。
【詳細】
だが死にたちむかうのに、手を握るしか方法のない人間の行為に、彼はなぜか知らぬが 生きることの素晴らしさを感じたのである。なぜそこに人間の素晴らしさがあると思ったのか、今の彼にはわからない。だが同時にもし自分がこの理由を噛みしめていけば、人間にとって死がなぜ与えられているか、死の意味とはなんなのかが少しずつ解きほぐされていくような気がする。
やがて自分がすっかり体が恢復した時、ここでの生活はどういう形で思い出されるだろうかとふと思う。窓から見える病棟、病棟のしずかな黄昏、真夜中ふと眼ざめて手術を考えた時のこと。手術の朝、手術の夜、数えればきりのないほど、さまざまなものが彼の胸に一時に甦ってきた。それらの出来事が自分の裡でどういう風に根をおろし、どういう風に自分の一部分になったのか、わからない。
<関連図書(勝手に)>