Javaさんのお部屋(サム・ジーヴァ帝国図書館)

Javaさんのお部屋です。引っ越しました。詳しくは「はじめに」を読んでね。スマホ版は全体像が見えにくいから、PC版と切り替えながら見てね。

夏子の冒険

著者:三島由紀夫
評価:B

【評】
『ああ、誰のあとをついて行っても、愛のために命を賭けたり、死の危険を冒したりするなんてことはないんだわ。男の人たちは二言目には時代がわるいの社会がわるいのとこぼしているけれど、自分の目の中に情熱をもたないことが、一番悪いことだとは気づいていない。……』

目を離さない。この青年のあとを追ってゆくこと、それこそは本当の情熱のあとを追ってゆくことである。

夏子はその長い接吻のあいだ、片目をちらとひらいて、頭上の星空を瞥見した。目の中に星が落ちてくるようである。口の中にその熱い滴がしたたってくるようである。大熊座が見え、小熊座が見えた。この親子の熊は、黒い光沢のある毛皮が夜空の黒にまぎれ入って、ただその爪や牙の燦めきだけが、われわれの目に映るにすぎない。

二人にとってその熊は、仇敵なのか、それとも理想なのか、見分けがつかなくなっていた。

青年の目はなるほど「希望にかがやいて」いた、しかし、それは煙草の箱に入った銀紙のような安っぽい輝きである。はじめてこの青年の目を見たときに、あれほど彼女を魅し、あれほど彼女の全身をさらってゆく力をもっていたあの輝き、あの輝きはすでに、どこにもない、片鱗もない!

レトリックも控えめで読みやすく、各章のヒキがなかなかよい。
キレた成瀬氏や、毎度のオバチャン三人衆のコミカル&シニカルな描写もよい。

ラストの既視感、
読者は無限ループを覚悟する。