評価:B+
【評】
つらく当たる母親に、少年の心は傷つけられていた。
いや、傷つくことに慣れっこになっていた。
やり場のない鬱屈した思いは、ときおり動物に対し向けられることもあった。
衝動が冷め我に返ると、空しい感情だけが残った。
けれど、少年には逃げ込める場所があった。
牙を磨いた少年は、ついに母親に立ち向かった――。
お母さんは途中の生垣で立ちどまり、枝を一本、折りとった。葉をむしり、棘は残して、こちらに向ってやってくる。その様子は嵐が近づいてくるみたいだった。(略)
でも、にんじんは逃げなかった。にんじんはいつも逃げない。あんまりお母さんが怖いので、どうせ怒られるなら、早く怒られてしまった方がいいからだ。けれども、今日はそんな臆病な気持ちからではなく、勇敢な気持ちから逃げなかった。
「嫌だよ、ママ」
「ぼくはこれまでずいぶん考えて、迷っていたんだ。でも、もう終わりにしなくっちゃ。本当のことを言うよ。ぼくはママが嫌いなんだ」「原因は全てのことだよ。生まれてからずっとね」
「我慢して強くなれ! 成人して、自分の思い通りにできるようになるまで・・・・・・。自由になって、私たちを否定し、自分の家族を作るようになるまで・・・・・・。それが嫌だったら、性格を変えるんだ。すぐに傷つかずに、辛いことを乗り越え、ほかの人のしていることを観察しろ。とりわけ、身近で生活している人たちを・・・・・・。そうしたら、もっと楽しく生きられるようになるぞ。人生には心慰むことがたくさんあると知って、びっくりするはずだ」
「そうかもしれない。ほかの人たちもみんな大変だってこともわかっている。明日になったら、ぼくはその苦労に同情するよ。でも、今日はだめだ。今日は自分のことで精いっぱいなんだ。ぼくの運命より好ましくない運命なんてあるものか! ぼくには母親がいる。その母親はぼくが嫌いで、ぼくも母親が嫌いなんだ」