Javaさんのお部屋(サム・ジーヴァ帝国図書館)

Javaさんのお部屋です。引っ越しました。詳しくは「はじめに」を読んでね。スマホ版は全体像が見えにくいから、PC版と切り替えながら見てね。

西田幾多郎随筆集

著者:西田幾多郎 編:上田閑照
評価:B+

【評】
哲学者・西田幾多郎ではなく人間・西田幾多郎の姿を知りたいキミに。

意外とするする読める。
家族との死別、教師・友人との死別。
西洋哲学と東洋思想、そして人生の悲哀が結びついたとき、西田哲学は誕生した。
大拙との交わりや参禅、京都の寒さにも注目ぢゃ(・ε・)

回顧すれば、私の生涯は極めて簡単なものであった。
その前半は黒板を前にして座し、その後半は黒板を後にして立った。
黒板に向って一回転をなしたといえば、それで私の伝記は尽きるのである。 

ただ亡児の面影を思い出ずるにつれて、無限に懐かしく、可愛そうで、どうにかして生きていてくれればよかったと思うのみである。

垢つきて 仮名附多き 教科書も 貴きものと 筐にをさめぬ
わが心 深き底あり 喜も 憂の波も とゞかじと思ふ

赤きもの 赤しと云はで あげつらひ 五十路あまりの 年をへにけり
人は人 吾は吾なり とにかくに 吾行く道を吾は行くなり

丁度五歳頃の愛らしき盛りの時にて、常に余の帰を迎えて御帰をいいし愛らしき顔や、余が読書の際傍に坐せし大人しき姿や、美しき唱歌の声や、さては小さき身にて重き病に苦しみし哀れなる状態や、一々明了に脳裡に浮び来りて誠に断腸の思いに堪えず候。

特に深く我心を動かしたのは、今まで愛らしく話したり、歌ったり、遊んだりしていた者が、忽ち消えて壺中の白骨となるというのは、如何なる訳であろうか。
もし人生はこれまでのものであるというならば、人生ほどつまらぬものはない、此処には深き意味がなくてはならぬ、人間の霊的生命はかくも無意義のものではない。
死の問題を解決するというのが人生の一大事である、死の事実の前には生は泡沫の如くである、死の問題を解決し得て、初めて真に生の意義を悟ることができる。

永遠の過去から永遠の未来へ去り行く時の流、惜まれる人も惜む人も、いずれ跡方もなく亡び行く虚幻の世ではあるが、人の世には人ほど貴きものはない。況して我らの生涯の短き軌道の上に映じ来れる美しき星の光、長く余光を我らの生涯の上に留めたいと思うのである。

東洋文化の根底に横たわる世界観人生観というものはギリシャ及びユデヤの孰れとも異なったものであり、しかも深き人間性の一面を示しているものと考えることができる。ただ、我々はそれを何処までも学問的に基礎付け組織せなければならない。我々は貴き金属を含む東洋文化の礦石を近代的に製錬せなければならない。それにはそれだけの組織力が養成されなければならない。


新年度からは ↓ だ。