【概要】
著者(監督):山崎豊子
「私は、この大地の子です」
中国残留孤児の主人公にめちゃくちゃ苦労させるのが豊子らしい。日本人・中国人両方の属性を持っている狭間の者的二面性が物語を浮き沈みさせる。日本鬼子の血で家族が悲惨な目に遭ったり労働改造所送りになったりする一方で、日本の技術導入プロジェクトに引き抜かれるなど生まれ持った宿命からは逃れられない。
豊子、お得意の取材力を駆使して、何千「リューベ」や継目なし鋼管などの『華麗なる一族』で調べたであろう鉄鋼知識に加え、PERT工法やら各種トラブルなどのプロジェクトマネジメント的な内容についても勉強したとみられる。「製図は”技師の言葉"」なのだ。
主人公視点のみならず、中国首脳部の権力闘争、中国農村部の悲惨な暮らしも描写して大河小説感を醸し出している。
戦争孤児に対する責任と贖罪、中国人民への加害・被害を超えたラストのプロジェクト完遂の場面には『恩讐の彼方に』的な大団円感があった。んでもって、実の父の誘いを断り。自身が「大地の子」であると再確認するするシーンには愛憎を超えた帰属意識を感じたねえ。
また豊子、『不毛地帯』などにもあるように、大日本帝国の棄民政策の悲惨さや関東軍の保身には登場人物の言葉を借りて憤りを表明している。中国や東南アジアの民へ齎した惨禍への加害者意識が薄れて久しいが…。
ドラマが気になってきた👀
【詳細】
<目次>
(1)
(2)
- 再会
- 北京
- 証し
- 不死鳥
- 中南海
- 長城
- 茨の日々
- 上海
- 談判
- 暁
- 国務院回線
- 鉄の長城
(3)
- 日本
- 富士山
- 三十六年目の旅路
- 長江
- 誓い
- 密告
- 変節
- 北戴河
- 明暗
- 妹よ
- 再開
- 突風
(4)
- 運命
- 眼には眼を
- 二人の父
- 不信
- 家
- 不信
- 査問
- 刺す
- 火入れ
- 三峡下り
<メモ>
(1)
「そいつは、日本侵略主義者の雑種、日本鬼子だ!」
陸一心、残留孤児という生い立ちにより早速文革の吊し上げ。一巻はずっとハードモードが基本。豊子、とりあえず主人公をいじめるのが好き。
父と生き別れ、母や妹あつ子と生き別れ、農村に売られ、脱走し、また捕まって売られ…。そこで育ての父・陸徳志に拾われる。敗戦後に初めて出会うまともな大人で、志高清遠なのだ。ズッ友の袁力本にも脱走時に出逢う。
国境内戦で国府軍が迫り、聖人の父も奪い合いに手を染めたあの日、それは、はじめて中国の父を「爸々」と呼べた日――。
日本鬼子の血でいわれなき差別を受けつつ学業を積ませてもらうも、文革の嵐に巻き込まれ労働改造所に送られる。現在と過去視点、人物ごとの視点が切り替わり適度にピリッとして読みやすい。灰色になりやすいハード物語になりがちなので、巡回医療隊の江月梅や妹分・秀蘭、丹青との恋愛ムードも入れてスパイス効かせてきたりもする。
「労働に参加し、汗をかくことによって、お前たちの立ち遅れた思想の垢を流し落とす機会を与えて下さった毛主席の感謝せよ!」
毛沢東語録の丸暗記や思想改造が必須。一方で獄中でインテリおじさんに日本語を学ぶなど、日本鬼子としての出自から逃げられない宿命。でも、
「慈悲深い養父母に育てられたあなたの心は、善良な中国人以外の何ものでもありませんわ」
(2)
月梅のダイレクトメールと親友のコネ、国家的な事情で冤罪は雪がれ、パパと再会。
「苦難の中で播かれた種は、どんな風雪にも耐え、必ず芽ぶくものだと云われていますわ」
これは結婚するしかない。
工程師としてキャリアを再開、エンジニアとして再出発。日本語能力を買われ複雑な気持ちながらも日本の最新鋭高炉技術導入プロジェクトに参画。
軌道に乗ってきたので妹探しに着手開始。
一方で生きていたおとんの視点導入を開始、満州国移住キャンペーンには助成金も出ていたりで結果的に開拓団を死に追いやってしまったおとんには自責の念あり。中国への技術供与元としてプロジェクト参画。「日中友好」の名のもとにFEED見積もりがめっちゃ値切られるが、何とかまとまり、起工式へ。
(3)
三十六年前、別れ別れになった父と子の上に、何という無慈悲な歳月が流れたのだろうか――。
開梱検査での鬼ツッコミ、錆問題、杭折れなど、中華スタイルに翻弄されるプラント建設。プロジェクトマネジメント過酷すぎる。
忙しくバチバチやる中、ついに晴れて共産党員になった我らが主人公。
だが、宣誓をし、重工業部の全党員とインタナショナルをうたっているうちに、一心の屈辱も消え、宣誓通り、今後の人生を迷わず、党と国家に捧げようという気概に満ち溢れ、感動していた。
というところで、韜光養晦おじさんたちの政争に翻弄されプロジェクト一時中止。納入済み機器の防錆対策とか、別プロジェクトへの資材転用とか、GIS木枠梱包破損事件とか、プロジェクトマネジメントやばすぎんだろ。
「カッチャンは、この私だよ、兄ちゃんだよ!」
貧村で頭の弱い夫の嫁にされ家畜のような暮らしをしていた妹。
一心は、狂ったように妹の体をかき抱き、嗚咽しつつ、人間の運命を思った。自分は陸徳志という慈悲深い第二の養父に恵まれて育ったが、妹は戦争孤児として日本の大人たちの犯した罪を、幼い体で償い、農村で牛馬の如く酷使されながら、生きて来たのだった。できることなら、自分の生命を削ってでも、不倖せな妹に与えてやりたかった。
(4)
松本がオトンであることが判明。
「あつ子、あつ子! 父さんだよ、あつ子!」
「勝男、すまなかった、苦労をかけて――だが、一日としてお前たちのことを忘れた日はない」
兄と娘の運命、別れすぎ。中国大地の度量、無窮。
日本鬼子という特殊な経歴で浮き沈みしてきた一心さん、難しい立場もありオトンに塩対応やことさらに厳しく当たってみたりする。無理を通す中方スタイルはもうたくさん!
プライベートでは、育ての親と生みの親が対面する、実ママの仏壇にお参りするなどして物語を進めていく。素直にお喋りできない感じがTSUNAMIだね。
門限やらかし文書なくし飛ばされるも、後ほど元カノのフォローで内蒙古から呼び戻し成功。火入れ、立ち上げ完了。
炉内から凄じい迫力で、白味がかったオレンジ色の炎が送り出、みるみる周辺は初湯の炎の海と化した。
「初出銑、万歳!」
「宝華、万歳!」
万雷の拍手と大歓声が湧き上った。四千リューベもの大型最新鋭の高炉初出焼をはじめて体験した中方は感極まり、昂奮のあまり、泣き出す者もいた。協力した日方も歓喜し、互いに固い握手を交して、喜びを分ち合った。この一瞬に、中日双方の間に
かまっていた不信感 憎悪は消え去ったのだった。
一心も歓喜のあまり、 誰彼なく抱き合い、骨も砕けんばかりに握手して廻った。そして眼前に、松本上海事務所長の姿を見ると、苦渋に満ちた歳月と、中国最初の大型一貫高炉の命が誕生した歓びとが二人の間に錯綜した。 どちらからともなく歩みす
たかと思うと、はじめて、ひしと抱き合った。
「私は、この大地の子です」
峡谷の江面と巌に、一心の声が欲するように響いた。大地の子――それは日本の父
に対する惜別であり、自分自身の運命に対する無限の呼びかけに他ならない。松本は発する言葉もなく、河岸に眼を向けた。四十年間、この大地に育ち、生きて来た息子とは、もはや埋めようのない隔りがあることを思い知った。
一心は、父の胸中を察しつつも、固く口を閉ざした。船は、滔々たる長江を下って行った。
(完)
●旧新日鉄資料
https://core.ac.uk/download/pdf/230326456.pdf
