【概要】
著者(監督):川上未映子
わたしは奥歯であるのやと、云うてもええんとちゃうのん、わたしは奥歯であってもいいのですと、そういうことにしたのでした。
・ここは、口の中である
・そして! 真ん中に巨大な舌が生えてある
・歯茎の模型・壁・ほうろう・コップら・薬棚・ドリル・瓶・壁、これらは歯であって
初・川上美恵子なのだ。詩的ではあるし一瞬哲学的な悟りに達しそうにはなるのだが、気が狂いそうになる。薄くてよかった。『雪国』冒頭の日本語的な無主語の世界とか、純粋経験とか、支離滅裂ではあるのだが、じんわりとした知性は感じられる。
統合が失調した感じの一人称的な視点で、頭の中の考えや妄想やらがどばどば垂れ流されていく感じ。場面転換の*が歯のマークだったり、「~しやんくなった」などの大阪・奈良弁が地味に効く。
なあ奥歯、奥歯ちょうだい、青木くんの、奥歯ちょうだい、それが青木くんやねん、青木くんの私が入ってるんやもん、
登場人物が言うように「最初から最後まで訳がわからなくて」混乱する読書体験となる。小説よりも詩に近い。
それはおいといて、川上未映子ってなんか色っぽいのよね🐸
【詳細】
<メモ>
俳優やモデルもやっていたりする。
青木が一回だけ治療にきたあの日、横になった。んなじ舌のうえで、 わたしいまこうやって横になってます、あのとき、舌のうえに青木の口の中にも舌があって、見てるだけで誰もおらん世界が優しく折りたたまれていくみたいやった、誰もおらん世界がそっと片づけられていくみたいやった、またいつでも取りだせるように入れ子になって、世界が一瞬、入れ子になって、あの日の青木とおなじように、いま舌のうえにおって、ほいで、奥歯を抜いてもらうんよ、舌のうえにわたしが寝て、んでわたしの口の中の舌のうえにながいあいだ私でおってくれた奥歯が抜かれてそっと置かれて、それを、いま、誰かが見てる、何かが見てる、何かわからへんけど、それをずっとずっとうえのほうから、これを見てる、これをしてる、寝転んでる私をわたしを、この治療室を、この入れ子を、経験してるものがあって、私をこえて、 わたしをぬけて、してるものがあって、それがきっと、それがきっと、雪国のあのはじまりの、わたくし率が、限りなく無いに近づいてどうじに宇宙に膨んでゆくこのことじたい、愉快も不快もないこれじたい、青木がわたしに教えてくれた、何の主語のない場所、それがそれじたいであるだけでいい世界、それじたいでしかない世界、純粋経験、思うものが思うもの、思うゆえに思うがあって、私もわたしもおらん一瞬だけのこの世界、思う、それ