Javaさんのお部屋(サム・ジーヴァ帝国図書館)

Javaさんのお部屋です。引っ越しました。詳しくは「はじめに」を読んでね。スマホ版は全体像が見えにくいから、PC版と切り替えながら見てね。

雪国

著者:川端康成

【評】

国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。夜の底が白くなった。信号所に汽車が止まった。


小太りしまむらをテコに駒子、葉子二人の女の官能美を描く。
冒頭の車中の葉子の描写は白眉といってよいのではなかろうか。

悲しいほど美しい声であった。高い響きのまま夜の雪から木魂して来そうだった。


駒子はまた違った趣があってよい。

その伏目は濃い睫毛のせいか、ほうっと温かく艶めくと島村が眺めているうちに、女の顔はほんの少し左右に揺れて、また薄赤らんだ。

 

「なんとなく好きで、その時は好きだとも言わなかった人の方が、いつまでもなつかしいのね。忘れないのね。」

 

「私妊娠していると思ってたのよ。ふふ、今考えるとおかしくって。ふふふ。」と、含み笑いしながら、くっと身をすくめると、両の握り拳で島村の襟を子供みたいに掴んだ。
閉じ合わした濃い睫毛がまた、黒い目を半ば開いているように見えた。

 

久しく会わずにいても、離れていてはとらえ難いものも、こうしてみると忽ちその親しみが還って来る。
駒子はそっと掌を胸へやって、
「片方が大きくなったの。」
「馬鹿。その人の癖だね、一方ばかり」
「あら。いやだわ。嘘、いやな人。」と駒子は急に変った。これであったと島村は思い出した。

 

襦袢の襟が見えず、素足の縁まで酔いが出て、隠れるように身を縮めているのは変に可愛く見えた。