【概要】
著者(監督):西浦正記、中田秀夫
福島第一原発の原子力災害に文字通り命がけで対応した人々の群像劇。あまりにショッキングな出来事ゆえに、意外と現場の対応や雰囲気がどうであったかは知られていないのではなかろうか。ドラマとはいえかなりの労力がかけられているので、当時の緊迫感・絶望感・使命感の一端を感じられるはず。
電源が全喪失した原子炉の建屋に残り、重装備の防護服でバルブを閉めに行く。いつ水素爆発が起こるか、放射線量が限界を超えるか、見えない線量の恐怖が描かれている屋外には瓦礫が積み重なり、土埃が舞い、線量計が鳴りやまない。重装備、しんどそう。
現場の人々や家族の奮闘も多面的に描かれていたのだが、やはり物語の主軸は吉田所長にある模様。ここぞという場面でリーダーシップを発揮。くじけそうになる所員を鼓舞し、なんとかなりそうな感じを出す。平静を保とうとする。チェルノブイリをはるかに超える最悪のシナリオもありえた中で、幸運もあってか何とか被害を壊滅的でないレベルに留められたのは、彼という人間がいたからであろう。
あえてかもしれないが、「チェルノブイリ」のように原子炉建屋の構造や原子力発電のしくみ(圧力容器・構造容器、制御棒、ベントなど)や災害に至った技術的な経緯を俯瞰的に解説してくれないのは、緊迫感や当時の混乱感を出すためだったのだろうか。個人的には記録映画的な側面もあるので素人向けに解説してほしかった気も。
【詳細】
<メモ>
- 水難事故、家族とのメール、そして血尿。いろいろと印象深いシーンあり。
- 官僚側の描写は、ダメなシン・ゴジラ感。技術系出身であるがゆえに却って大局観を失い不必要かつ高圧的に介入する総理。うまく専門家を使え。そんな彼や本店を尻目に、こっそり海水注入する腹芸を決める吉田所長。
- 圧力427 kPaGなどの言葉のリアル感。
- 事実の伝達に難あり。誰が情報を持っているかが不明確で混乱したりするあたりはいかにもありそうだ。
- 1号機に育ててもらう←現場感。
- 薄氷の緊迫状態の中、AO弁を手動あるいは移動コンプレッサーで動かす、海水注入やら凍土壁やら、何とか目的を達しようと奮闘するのがエンジニアリング感があってよい。