【概要】
著者(監督):小川洋子
「役に立たない地味で小さな物事の中にある物語を書く」「この世界に、取るに足らないものなど、何一つないのです」…ふ~ん、洋子じゃん。
小川洋子感あふれるエッセイだった。なんか、シャイなかわいいおばさんって感じだ。
「登場人物が私の手の届かない場所をさ迷いはじめる」といった言葉からは作家あるあるを感じられる。表題にもなっているワンワンの話や、創作に関するさまざまな思い、おなじみ倉敷での思い出、老いた父母、ハダカデバネズミや重力波望遠鏡といった幅広いテーマでゆるく読んでいられる。
【詳細】
<目次>
- 「る」と「を」
- ハンカチは持ったかい
- イーヨーのつぼの中
- 本の模様替え
- 散歩ばかりしている
- ポコポコ頭を叩きたい
- 盗作を続ける
- 長編み、中長編み、長々編み
- 肉布団になる
- 自分だけの地図を持つ〔ほか〕
<メモ>
「……を……いて……と……ぐ」⇒
だとしたら私は、登場人物たちの物語を書き写しているに過ぎない。 毒入りジャ
ムの製造に没頭する妹、人の記憶を標本にする技術士、江夏豊を愛する数学者、マ
ッチ箱を集める少女。これまでいろいろな人々の小説を書いてきたが、皆、世界の
片隅に隠れていた物語を私に話して聞かせてくれた。 それはあまりにも長い年月、
誰からも振り向いてもらえないまま忘れ去られていたので、化石のようにかたくな
に凝り固まっていたが、彼らが辛抱強く息を吹きかけ、掌で温めてくれたおかげで、
どうにか言葉という衣装をまとうことができた。
「犬とはつまり、機嫌のいい生き物である」
「ひとまず心配事は脇に置いて、とにかく散歩いたしましょう。 散歩が一番です」
とでも言うかのように、魅力的な匂いの隠れた次の茂みを目指してグイとリードを
引っ張った。