サム・ジーヴァ帝国図書館(Javaさんのお部屋)

Javaさんのお部屋です。引っ越しました。詳しくは「はじめに」を読んでね。スマホ版は全体像が見えにくいから、PC版と切り替えながら見てね。

猫を抱いて象と泳ぐ

猫を抱いて象と泳ぐ (文春文庫)
【概要】
著者(監督):小川洋子

架空のチェスプレーヤー、リトル・アリョーヒンの奇妙な物語。現実感や場所性が希薄で、幻想的で透明で、多少の不自然さには構わずずんずん進む物語。そんな小川洋子ワールドが展開する。

心の中に棲んでいる者たちとの対話、個性的な登場人物たちとの出会いと別れ、数々の名勝負。地下決闘場で人形の中に籠って闘うという設定の勝利。


【詳細】
<あらすじ>

チェスと出会って以降、少年が男をマスターと呼ぶようになったのは、ごく自然な成り行きだった。男は少年にとって唯一の師匠、船長、そしてチャンピオンだった。もちろん少年はバスを離れた場所で、他の誰かとチェスを指し、新たな発見をすることもあった。ボックス・ベッドで一人定跡の勉強をすることもあった。しかし、根っこはいつもマスターの元にあった。あのたっぷりと太った、温かくて柔らかい懐が、少年の基地だった。いずれにしても少年は、チェスについてのすべてを、回送バスの中で学んだのだった。

 

「何となく駒を動かしちゃいかん。いいか。よく考えるんだ。あきらめず、粘り強く、もう駄目だと思ったところから更に、考えて考え抜く。それが大事だ。偶然は絶対に味方してくれない。考えるのをやめるのは負ける時だ。さあ、もう一度考え直してごらん」
と、言った。そして最後に、
「慌てるな、坊や」
と付け加えるのを忘れなかった。

 

少年は生涯を通し、その日曜日の出来事を繰り返し思い返すことになる。他の思い出たちとは違う別格の小箱に仕舞い、何度でも開けてそっと慈しむことになる。チェスに裏切られたと感じるほどに傷ついた時、マスターとの思い出に浸って涙ぐんでしまう時、あの柔らかい冬の日差しに包まれた回送バスでの一局をよみがえらせ、マスターが教えてくれたチェスの喜びに救いを見出すことになる。

 

「哲学も情緒も教養も品性も自我も欲望も記憶も未来も、とにかくすべてだ。隠し立てはできない。チェスは、人間とは何かを暗示する鏡なんだ」

 

リトル・アリョーヒンは十一歳の身体のまま、それ以上大きくならなかった。精神やチェスがどんなに成長しようとも、身体はテーブルチェス盤の下に収まる大きさを保ち続けた。
誰もその事実を嘆き悲しんだりしなかった。大きくなることの悲劇から救われ、リトル・アリョーヒンは心の底から安堵した。大きくならないとはっきりした時点で、彼は大人になった。

 

「チェス盤は偉大よ。ただの平たい木の板に縦横線を引いただけなのに、私たちがどんな乗り物を使ってもたどり着けない宇宙を隠しているの」

 

<メモ>
インディラ、マスターとポーン、ミイラと鳩、老婆令嬢など、静謐で不思議なキャラクターたちが織り成す幻想世界。小川洋子世界のつっこみを許さずずんずん進む感じ、嫌いじゃない。人形チェスと人間チェス、文通チェスといったチェスのバリエーションも面白い。

以下エモシーン集。

  • 空想の友達と対話していた幼少期
  • 動かないバスの中でマスターとポーンにチェスを学んだ日々
  • ミイラと二人で夜道を歩いた日々
  • エチュード養老院での穏やかな日々と『ビショップの奇跡』

 

●おまけ

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