【概要】
著者(監督):おかざき真理
我(あ)。
最澄+空海というまさかの題材。意外と面白い。渡唐を中心に据え、高みを見た二人の往きて還りし物語となっている。 表現技法が独特で、阿頼耶識や事事無礙法界などの精神世界の表現に圧倒される。今に続く法灯の連続を感じてみないか?
【詳細】
<メモ>
- 危うさすら感じさせるイケメン最澄の「正しさ」「救済」の希求。それにハアハアする泰範こわっ。一方の野生児・空海との好対照が面白い。においフェチと化した最澄、オラワクワクすっぞな空海を見たい人はぜひ。
- 平安京に遷都しても疫病や権謀術数はとどまることはない。そんな中、真理探究に生涯をかけた男たちの姿があった…。日本仏教草創期の、ありえたかもしれないドラマ。最澄・空海はもちろん、その弟子たち、桓武天皇、和気清麻呂、徳一、勤操、坂上田村麻呂。阿弖流為、霊仙、橘逸勢、白居易、恵果、嵯峨天皇、藤原冬嗣などなども登場。
- 参考文献の層の厚みに著者の本気を見た(; ・`д・´) スッタニパータその他の仏典からの引用が多いのよね。法四依とか。
- 深い仏教理解と創作性・芸術性、高僧同士が経典・経文の世界にシンクロ・ダイブする解釈の斬新さが光る。経文の文字がぬらぬら浮き上がったり、形而上学的な精神世界が想像力と技法の限りを尽くして描かれていたり。仏像・仏具や宝飾品、山川草木、水墨画などに着想を得た(と思われる)阿頼耶識のイマージュ。華厳・唯識や密教などの表現に出てくる光のオーラ、水龍、つぶつぶ細胞、サイバー空間、新体操っぽいリボン、タタリ神的なおぞまし物体…枚挙にいとまなし。唐の高僧たちのガスマスク的ネットワークの表現がおもろい。
- この漫画、坊主率が高すぎる。
- 廃棄そして再構成(スクラップ&ビルド)、次元(レイヤー)、冊子(ノート)、怪物(モンスター)、編集者(プロデューサー)、同調(トレース)、リーダー、ワクチンなどのカタカナ言葉を隙あらば入れてくる。著者の言語アラヤ識が興味深い。
- お気に入りシーン:水垢離最澄、虚空蔵求聞持法→海生生物DNA二重らせん、天大法華講話、太宰府でのふたり読誦、事事無礙法界、恵果和上曼荼羅、華厳、犀の角のごとくただ独り歩めラッシュ→全裸、デイダラボッチ最澄、結縁灌頂、双竜、ハハハハハ合戦、それぞれの道、満濃池改修工事。あと、にうつ様に代表される聖俗の混淆(ツチグモ一族便利)、説法のライブ感、中間管理職勤操のギャグ寄りの悲哀、漢字・梵字法悦、盛りは過ぎたといえ華やかなりし唐朝の華麗さとか…。
- 最澄をはじめに誘惑した女、薬子、橘嘉智子のHな官能性がけっこうすき。
- 怨霊・生霊の「ヌボボボォ…」感が独特。呪詛の言葉が帯のようになっていたりね。というかそもそもこういうのが出ている当たりに古代の残滓を引きずっている。
- タイトルは映画「あ・うん」から?
①
勤操
なんとも美しく激しい…
生き物かと思ったよ。
勤操
犀の角のごとくただひとりゆけ
そうだ。人は、本来…
全て等しく救われなくてはいけないんだよ……
②
全世界を救います。
新しい都には新しい仏教が必要ですよ。
おっさん!
もっと、欲ほしい!
③
勤操
ところで真魚、
虚空蔵求聞持法で何か掴めたかね?
お前さんは何を見たのかね?
我あを 見た。
泰範
やるべきこと……
それはなんですか?
海を渡る。
求める天台の教えは海の向こうにあるのです。
法相より三論より華厳よりも
更に究極の心の在りかが、そこにある!
“追うべきもの”が、この世に存在しているのだ。
それを追わずしてなんの人生か。
④
なんと気持ちのいい!
知性と厳正、高潔で荘厳、
極限まで澄んだ無色透明で崇高な…
言葉が、こんなに気持ちいいのは、
はじめてだ…
はじめてだ…
どうしたことだ。
ああ、気持ちがいい。
まるであの光が、全てを包み、吸収するような…
一切衆生、悉有仏性なり。
「救い」は、無限です!
にうつ
この山のために 唐に渡ってくれ。
仏の教えとこの世の理、全てを学び己を満たせ。
その者だけがこの里を救えるのだ。
それが、私との約束だ。
⑤
真理や世界は、こちらが手を伸ばしても、近づいてきてくれんよ。
しかし、空海あいつは逆に…
真理のほうから愛されている。
字が… 輝いて、
この男に書かれたことを、文字が喜んでいる!
彼の口を通すと、
文字は、言葉となり、意味を持ち、
意味は形を産み、
ああ、なんと心地の良い阿頼耶識…
光に満ち 温かく……広く……
高い!
あの時の闇か……そして光か…
もう一度教えてくれ。
名は、なんと言う。
ハハハッ、ようやく我を見たか。
空海。
⑥
阿(あっ)
来い!
この街の中に、世界の心理に続く扉がある!
見たくないか? 一緒に行きたくないか?
お前を待つ!
⑦
恵果
さあ空海、世界の真理へとダイブしよう。
一緒に。
⑧
恵果
密教の種子であるそれを
安全な場所に持って出て欲しい。
逸成
空海…
ここから人生だ。京で待ってる。
⑩
―――これが、
華厳———
華厳とは、花を散らすという意味——————————
全にして個、個にして全。
一瞬が永遠を映し、永遠は一瞬の中に宿る。
それを―――――――――――――体現する男ものが―—
必ずこの地に、それまで待っていてくださいますか?
必ず! 待っていてください、一目で解る仏の世界をお見せしましょう。
にうつ・嘉智子
吽うん
?
もしも汝が、<賢明で協同し、行儀正しい明敏な同伴者>を得たならば。
あらゆる危難に打ち勝ち。こころ喜び、気をおちつかせて、
彼とともに歩め。
⑫
面白かっただろう?
⑭
………もう…逝っちまうのか?
うん……この肉体は限界のようだ。
あとは弟子たちがなんとかしてくれる。
「釈迦との56億年後の約束はどうするんだよ。」
「祈り続けますよ、空海あなたと同じく。」
「ここから末法の世だからな。」
「そうですね、これから益々世が荒れる。」
「忙しくなりそうだ。」
「むしろこれからが…」
「はじめるぞ、56億年後のその日まで…」
「了解です。」
〇おまけ