著者:寺田寅彦
【粗評】
名文で綴られるテラトラの随筆。
少ししっとりしていて決して読みやすくはないが、高雅な感じがある。
そして各随筆の最終段落が効く。
さあ頁を繰ると『どんぐり』。
いきなりの名随筆出現。
一巻の中だと、『物理学と感覚』『丸善と三越』『田園雑感』『ねずみと猫』あたりも良い。
科学者の枠にはまらない観察力と思索には舌を巻くばかり。
それがまた、文章の典雅な調子と調和しているのが素晴らしい。
もちろん、
「できるだけ短時間に、できるだけ少しの力学的仕事を費やして、与えられた面積を刈り終わるという数学的の問題もあった」
「液体力学の教えるところではこういう崖の角は風力が無限大になって圧力のうんと下がろうとする所である」
などの理系アプローチも忘れない。随筆、書こう。
(第一巻)
『亮の追憶』『電車の混雑について』
『子猫』『ルクレチウスと科学』
あたりが特にグッド。
亮はたしかに弱い男には相違なかった。しかし自分の弱さと戦う戦士としては決して弱くなかった。平静な水面のような外見の底に不断に起こっていた渦巻がいかに強烈なものであったかは今私の手もとにある各種の手記を見ればわかる。そういう意味で亮は生まれつき強い人々よりも幾倍も強い男であったかもしれない。
私の目に狂いはなかった。
(第二巻)
『読書の今昔』『映画芸術』
『夏目漱石先生の追憶』
あたりかな。
映画、俳諧連句にすこぶる興味があるようだ。
(第三巻)