サム・ジーヴァ帝国図書館(Javaさんのお部屋)

Javaさんのお部屋です。引っ越しました。詳しくは「はじめに」を読んでね。スマホ版は全体像が見えにくいから、PC版と切り替えながら見てね。

日蝕・一月物語

日蝕・一月物語 (新潮文庫)

【概要】
著者(監督):平野啓一郎

『マチネ』から来ました。

日蝕』:擬古文的文体(大正頃?)で描かれる作品世界は、耽美であり幻想的でありおぞましくもある。神学者、異形の両性具有者、魔女狩り錬金術といった中世ヨーロッパに取材し、現代では特異な文体を使って、独自の作品世界を構築している。三島由紀夫の影響を感じないわけにはいかない。

『一月物語』:現実と夢の境界が溶けていく怪奇譚。泉鏡花っぽい?ぶっちゃけ眠くなる。


【詳細】
<メモ>

三島由紀夫っぽいやつ

それらの思索の断片は、どの一つとして纏ったかたちを成すものもなく、互いに錯綜し合い、途切れたかと思えば、ふと蘇り、相前後し、至る所で
破綻しながら、それでも丁度、雨上がりの澱んだ川の水面が、日華に時折煌めくように、何か知ら萌しつつある思想のようなものだけを幽かに予感させて、仄暗く憂鬱な渾沌を成していた。

 

眼前の焰の凄まじさは、世界と時間とを両つながらに呑み込まむとしていた。そのうねりと目眩く赫きとの裡に、或る瞬間的な到達の暗示と再生の劇的な予感とを閃かせながら。――世界の全的な到達と再生。そして私は、その濃緑の焰の渦中に、幽かに己自身の姿を垣間見たような気がした。……

 

●人造人間との邂逅

 巨大な石筍の上には、腕が見える。乳房が見える。項垂れた顔が見え、腰には陽物が見えている。衣服は一切纏わずに、唯その頭に、茨と蛇とが複雑に絡み合った冠を戴いただけである。茨の華は足下のそれと同様に開き遣らぬ儘緋色に赫き、蛇は頭を一周して、顙の上で自らの尾を噛み、結んでいる。肘から先と、膝から下とは石の中に埋まっていて、背も亦、石に附着しているようである。仔細に見れば、腕と腹部との隙にも、又、両脚の隙にも石が浸透している。 
 陰嚢の奥からは、懼らくは其処に在るであろう陰門より入って、肉体を貫き、項へと突き出した、飾りの多い杖のようなものが見えている。これにも亦、茨と蛇とが絡んでいるが、此処では蛇は二匹いて、それらが互いの尾を噛合っている。項を毀って出た杖の先端は、これが在る所の石筍がその儘小さく鋭利になったかのような、槍の如き状を呈している。それとは逆に、陰門より下った柄の末尾には、より複雑な細工が窺われる。先端には、鶏卵一個分程の球が在る。その上に、円と菱形とを組合わせた標が見えている。円はその内部を縦長の楕円状に刳貫かれていて、菱形は、この楕円に四つの頂点を接するようにして嵌込まれている。菱形の内部も亦、左右の頂点に近附くほどに肉が厚くなるように、水平な対角線の短縮せられた、角の取れた菱形状に刳貫かれている。これらの種々の形は、上下の二点のみを共有しており、この二点を、杖より伸びた一本の線が貫通している。
 肉体は、その豊かな乳房に最もありありと窺い得る所の優美さと、腹部や肩に顕君に現れたる所の堅強さとを備えており、これら相反する二つの性質の如何にも危うい均衡を、この一本の杖が統御し、繋ぎ止めていると云った様子である。遍身の筋肉は厳しく緊張している。肉体は将に今、石から産まれ出でむとしているかのようであり、又、石に吸収せられむとするを耐えているかのようでもある。だが一方で、この運動への志向は、乳房を中心とする脂肪の争いに因って鎮静せられている。憤怒する筋肉は、脂肪に抱擁せられて行動の一歩手前に踏み止まっている。脂肪は何よりも静謐と停滞とを志すからである。
 対立は、その面貌にも見えている。閉ざされた瞼は、苦痛の故とも、眠りの故とも判ずるを得ない。眉間に仄めく数条の皺は、愁いと快楽とを両つながらに予感させ、その謎を、際立った鼻準の直線の裡にあずけ、永遠に隠してしまう。臉際は締まり、顎の曲線は熟し遣らぬ果実のように滞らない。それらを覆い侵さむとする髪は、整がる爬虫類の如、又、甕より零れる清水のようでもある。
──そして、これらは渾て金色に輝いている。

(中略)次に私はこう考えた。この、石に縛められたる所のものは、巷説に聞く錬金術の人造人間ホムンクルスではあるまいか、と。

 

 

私はその偸閑な拷問の跡に駭腕した。両性具有者は薄い衣を腰のまわりに一枚纏って、巨大な豸のように這っている。起上がらむとして身を顫わせても、その都度失敗し地に伏してしまう。四肢は 悉く脱臼し奇妙に捩れ、両足は肉塊の如く潰れている。爪は一枚だに残っていない。頭髪は都て剃落され、薔薇と尾を噛む蛇との冠も失われている。鬱金に輝いていた膚は、無数に穿たれた針の痕に化膿し、裂けた肉は翻って華弁のようにその内部の緋色を曝している。
云うなればそれは生ける屍体であった。

 

 

そして、太陽は終に月と結ばれた。刹那に陽物は精液スペルムを以てそれを射た。陰門を顧ず、宙へと向けて放たれた涓滴は、焰を映じて緋色に赫き、我々と両性具有者アンドロギュノスとの間に煌めき渡る虹を現出せしめた。精液は猶も溢れた。肉体はそれを空しくしなかった。逆る白濁の雫は陽物を伝って流れ隕ち、左右に分れ陰嚢の奥に入って、陰門と出逢い内部に流れ込んだ。

…( ゚Д゚)

両性具有の人造人間、魔女狩り、拷問、日蝕、光…イメージの奔流に幻惑される。

 

●おまけ

道すがら慎ましやかに花開いた姫射干や連驚草、桜菫などを眺めては、睛を悦ばせ、その心懐しい可憐な彳まいに、足を止めることも幾度か。生門蔓を見つけるに及んでは、幾重にも聯なるその紫色の花々に、切り落とされた鬼女の掌を認めたと云う古人を懐って、埒もない空想に耽ったりもした。

 

 

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