【概要】
著者(監督):坂口安吾
『堕落論』しか読んだことなかった安吾。ちょっと大人向けで不気味な、死の香り漂う短編集。歴史ものが多く、小悪魔系な姫が多数登場する。「紫大納言」「桜の森の満開の下」「夜長姫と耳男」あたりが好印象。
【詳細】
<目次>
- 小さな部屋
- 禅僧
- 閑山
- 紫大納言…「あの、まっしろなししあいが、もはや、大納言のすべてであった。どのように無惨なふるまいを敢えてしても、あのししあいをわがものとしなければならぬと彼は思った」などから見える変態性がよい感じ。天女へのいたずらの果てに彼がたどり着いた境地は。
- 露の答
- 桜の森の満開の下…表題作。「の」が三連単しておりゴロがいい。下の句っぽいし。首遊びする美女という表象が谷崎の『武州公秘話』あたりを思い起こさせる。彼は女の顔の上の花びらをとってやろうとしました。彼の手が女の顔にとどこうとした時に、何か変ったことが起ったように思われました。すると、彼の手の下には降りつもった花びらばかりで、女の姿は掻き消えてただ幾つかの花びらになっていました。そして、その花びらを掻き分けようとした彼の手も彼の身体も延した時にはもはや消えていました。あとに花びらと、冷めたい虚空がはりつめているばかりでした。
- 土の中からの話
- 二流の人…歴史もの。「天才とは何ぞや。自己を突き放すところに自己の創造と発見を賭けるところの人である」「彼は保身の老獪児であるかのように見られているが、さにあらず、彼はイノチを賭けていた。秀吉よりも、信長よりも太々しく、イノチを賭けて乗りだしていた」イノチがカタカナになっているところにこだわりを感じる。
- 家康
- 道鏡…誰もさわれない二人だけの国といった感がある。
女帝の空想はたのしかった。道鏡が天皇になったら、うんと駄々をこねて、こまらしてやりたい。うんとすねたり、うんと甘えたり、手のつけられないお天気屋になってやりたい。そして道鏡の勘の鈍い、取り澄した、困った顔を考えて、ふきだしてしまうのだ。
- 夜長姫と耳男…またもや暴力姫登場。
「好きなものは咒うか殺すか争うかしなければならないのよ。お前のミロクがダメなのもそのせいだし、お前のバケモノがすばらしいのもそのためなのよ。いつも天井に蛇を吊していま私を殺したように立派な仕事をして......」
ヒメの目が笑って、とじた。
オレはヒメを抱いたまま気を失って倒れてしまった。
- 梟雄
- 花咲ける石