【概要】
著者(監督):井筒豊子
夫の井筒俊彦とともに過した海外での学問遍歴をエッセイで振り返る。大学者にも伴侶はおり、日常の姿がある。エッセイはいいのだが、評論は一文が長く文意がつかみづらい。だが、夫の言語哲学を継承せんとする妻の気概が感じられる。
【詳細】
エモ。
「井筒は、表はとてもにこやかで愛想がいいのですが、本当は人嫌いといいますか、内気なのです」
「井筒は歩くのが好きで、カイロでも、バザールでも何でも、大抵のところには歩いて行きました」
「あんなに壮大華麗な日の出を井筒と一緒に見たことは、私にとって本当に貴重な思い出となりました」(テヘラン)
「気の重い私を連れ出すのに、だが夫はいつも多言を要しない。“何事も経験だから”と云うのである。全くその通りである!」
井筒と二人で、果物やいろいろ買い物をして、大きな買物袋をいくつも抱えた帰り道、途中で一休みをします。あの辺はイタリア風で、藤棚の下にテーブルがあって、そこでお茶を飲む。小さな広場になっていて、周りの石柱の立ち並ぶ回廊に沿っていろいろなお店があるのです。その中の一軒がカフェだったりするのですが、そこからボーイさんがお茶を運んできてくれます。そういうのを飲んで、また荷物を持ってタクシーで帰りました。
食卓では井筒も私も、いろいろなことを話し合っていました。それで、お互いにお互いのことは多分わかりあっていたと思いますが、井筒は本当には私のことは分からなかったし、私も、井筒が亡くなってから何となく井筒がわかってきたというところがありまして、二人とも無我夢中で四十年を駆け抜けた気がします。