【概要】
著者(監督):手塚治虫
その通りさ!
歴史にも書かれねえで死んでったりっぱな人間がゴマンといるんだ………
伊武谷万二郎という非実在青少年と手塚の先祖・良庵を主人公に据え、チャンバラや策謀やユーモアやお色気を適度に差し挟みつつ、幕末の群像劇が展開されていく。主人公二人が義理と人情を受け持っているのがいい感じ。種痘所の設立と啓蒙とか、チャンバラとか、洪庵先生や新政府オールスターズ、幕末の政治家・剣客・思想家などの実在人物たちの交流や策謀とか、いろいろと手塚の圧倒的な取材量や知性に基づいた物語を堪能できる。
【詳細】
<メモ>
- 裏テーマとして、蘭学者の奮闘や種痘などの先進医療の普及の歴史を描くことがある模様。コレラでバタバタ死ぬのは現在の新型コロナV蔓延を想起させる(; ・`д・´) 予防接種キャンペーンではお札や饅頭も使うぞ。
- 義理と人情を象徴する二大主人公として、伊武谷万次郎と手塚良庵を配置。一本気で不器用で要領が悪くて直情径行な前者と、父親譲りの好色で易きに流れるように見えてもやるときゃやる(ぶっつけ本番で手術するとか、ズーフ部屋で勉強するところとか)後者。彼らがオナゴの取り合いしてるのもええ感じ。このような主人公2人パターンはやはり熱い。歴史の動乱の中どういう活躍をするのか気にならないか(; ・`д・´)
- でもどっちかというと万次郎が主なのかなって思ったわ。結婚するも死に場所を求めて彰義隊に参加しちゃうし。良庵は歴史の語り部って感じかな。
- 他にも、でんでん太鼓を胸に秘めていた陶兵衛、最強の猟師・平助、毛唐に襲われるおせきさん、生命力高そうな夜鷹のお紺、みんなのヒロインおせきさんの操を奪ったヒュースケン、そして実在の人物たち…唐人お吉、ハリス、緒方洪庵、清河八郎、大鳥圭介、福沢諭吉、山岡鉄舟、阿部正弘(ぬぼーとした感じがグッド)、勝麟太郎、橋本佐内、芹沢鴨、徳川慶喜、西郷隆盛、大久保利通、坂本龍馬、土方歳三、大村益次郎などなどが登場。こういった登場人物がだんだんと退場していくのが悲しい。
- 黒船来航から15年ぐらい経過するが、終盤1860'sからスピード感が増。陰謀・暗殺・チャンバラありーので飽きさせない。
- 青年誌だからかお下の話も多め。手塚青年誌作品はイイ女も多いがレイパーもまた多い(; ・`д・´) ヒョウタンツギなどの手塚オキニキャラもしっかり登場させる。ダジャレ(下と舌、ヤークショ⇒ハークショーイ⇒畜ショーイなど)、メタ発言(紅葉☜白黒やんけ、など)、トリビア(賄賂で待ち時間短縮、ジャパン・パンチ☞ポンチ絵など)といった漫画技法も圧倒的取材量にまかせて余さず投入する。
- 文庫版は巻末のエッセイでネタバレしているので全部読破するまでエッセイは読まないほうがいいかも(; ・`д・´)
よかろう……………
ここは不潔でシラミだらけかもしれん。
だがな、君が羽二重のフトンにくるまってヌクヌクと寝てる間にも……
このシラミだらけの部屋で、仲間はそれに堪えて、
必死で勉強してるんだってことを忘れるなよ。
2-7 東湖
ここは陽当たりもええし風も強うない…
この桜はぬくぬくと三百年、太平の世に安泰を保ってきたわけじゃ……
ところが知らぬ間にこれやこのとおり白蟻や木喰い虫の巣になってしもうたわい。
もうこれはあと十年ももつまいて。
徳川の世はこの陽だまりの桜の木のようなものじゃ……
⇒「陽だまり」の穏やかなプラスイメージは本作では真逆(; ・`д・´)
2-9左 東湖
これからの十年、たぶん日本は未曽有の大事件にみまわれるだろう。
貴君たちは枯れかかった徳川幕府という大樹の最後の支柱になるんだ。
4-293 良庵ママ
男ってもんはね
女が考えてるような平凡な暮らしは望まないんだよ。
何か冒険とか大きな仕事をしたがるものなのさ…
6-15 良庵
彼の唯一の欠点は口べたで、要領が悪いことなんですが
口達者で要領のいい人間、たとえば私なんか及びもつかない度量の大きな男です。
まあ一言にしていえば、男が惚れる男でしょうな。
まったく、シャクにさわる男ですが…
8-315
その通りさ!
歴史にも書かれねえで死んでったりっぱな人間がゴマンといるんだ………