Javaさんのお部屋・改

Javaさんのお部屋です。引っ越しました。詳しくは「はじめに」を読んでね。スマホ版は全体像が見えにくいから、PC版と切り替えながら見てね。

更級日記


著者:菅原孝標女 校注:西下経一
評価:B+

【概要】
平安後期の地方官の娘の旅日記、歌日記、一代記。少女時代、源氏物語濫読や猫出現のあたりはまだ明るいが、上京以降は哀愁と幻滅と孤独が敷き詰められており鬱々としている。現実の味気なさと物語の絢爛さが対照的で哀しい。

【詳細】
平安後期の地方官の娘の旅日記、歌日記、一代記。
さるべきにやありけむ、思ったより暗い。
源氏物語濫読>

いかに思ひはじめける事にか、世の中に物語といふ物のあんなるを、いかで見ばやと思ひつゝ、つれづれなる晝ま、宵ゐなどに、姉繼母などやうの人々の、その物語、かの物語、光る源氏のあるやうなど、ところどころ語るを聞くに、いとどゆかしきさまなれど、わが思ふまゝに、そらに、いかでかおぼえ語らむ。

「京にとくあげ給ひて、物語のおほく候ふなる、あるかぎり見せ給へ」と、身を捨てて額をつき、祈り申すほどに…

得て歸る心地の嬉しさぞいみじきや。はしるはしる、わづかに見つゝ、心も得ず心もとなく思ふ源氏を、一の巻よりして、人もまじらず、几帳の内にうち臥してひき出でつゝ見る心地、后の位も何にかはせむ。晝は日ぐらし、夜は目のさめたるかぎり、火を近くともして、これを見るより他のことなければ…

物語にある光る源氏などのやうにおはせむ人を、年に一たびにても通はし奉りて、浮船の女君のやうに、山里に隠しすゑられて、花、紅葉、月、雪を眺めて、いと心細げにて、めでたからむ御文などを、時々待ち見などこそせめとばかり思いつゞけ、あらまし事にもおぼえけり。
<猫出現>
「いみじうをかしげなる猫」「いづら、猫は。こちゐて来」
「顔をうちまもりつゝ、なごうなくも、心のなし、目のうちつけに、例の猫にはあらず、聞き知り顔にあはれなり」

<旅路>
別離と旅情と。
「行くも止るも、みな泣きなどす。をさな心地にもあはれに見ゆ」
「もろこしが原に、やまとなでしこしも咲きけむこそなど、人々をかしがる」
「富士の山はこの國なり。わが生ひいでし國にては西おもてに見えし山なり」

上京以降は哀愁と幻滅と孤独が敷き詰められており鬱々としている。現実の味気なさと物語の絢爛さが対照的で哀しい。

母なくなりにし姪どもも、生まれしより一つにて、夜は左右に臥しおきするも、哀れに思ひいでられなどして、心も空に眺めくらさる。たち聞き、かいまむ人のけはひして、いといみじく物つゝまし。

物語のことも、うち絶え忘られて、ものまめやかなるさまに、心もなりはててぞ、などて、多くの年月を、いたづらにて臥しおきしに、おこなひをも物詣をもせざりけむ。

月もなく 花も見ざりし 冬の夜の 心にしみて 戀ひしきやなぞ

今はいかでこの若き人々おとなびさせむと思ふよりほかの事なきに、かへる年の四月にのぼりきて、夏秋もすぎぬ。

年月は過ぎかはりゆけど、夢のやうなりしほどを思ひいづれば、心地もまどひ、目もかきくらすやうなれば、そのほどの事は、またさだかにも覚えず。 

作者、解説でdisられる。
「これを要するに、この日記の作者は、一生のうち、どこにも満足すべきものがなかったのである」

ええーーーっ!
自分ほど不運な者はないと思い、静かに自己をいたわっていると、少女時代から始まる一生の思い出が、ほのぼのとして眼前に去来して胸をしめつける。この思い出のみは、何物にも換えがたい宝物であり、この宝物をたいせつに記録しておこうと思う、これがこの日記の執筆動機であり、同時に、この日記の基調でもある。