評価:A
【評】
「人並はずれたおしゃべり」の㌧。
文章の書き方は二の次にして、
人間として立派でなければ、いい文章は書けない、立派な人間になるには、……これが、この本の特色です。
いちおう子ども向けだが、
内容は人類史、無意識(ユング、西田)、遺伝論など子供を舐めていない。高踏的でなく対等。
「たいことをたいせよ」の読後威力がすごい。
生き方論然とした内容はもちろん、次々に繰り出される諧謔もよい。筆が躍っているようだ。
ルー大柴的話し方や、A君B君対話の実況中継、「トテステ(とても素敵だ)」。
「この頃では、軍事・国防の予算がやたらに嵩むばかりです」という時局柄結構グレーなことも言っているぞ。
「誕生点」
――君が死んだあとに、君がいるかい?僕が死んでしまったら、もう決して僕はいないんだ。そういうわけで、人間は、一人のこらず『世界的』以上、『古今東西的』な存在なんだよ。一人一人が、絶対にかけがえのない宝物なんだよ。
誰が君のすべきことまで、引取って、代りにやってくれる手があるか?『出来ないまでも、やれるとこまで、精一ぱい、やってみよう!』なぜ、いつもそういう気持でいないんだ。
君なんだものね。魂の刻印が、どこかに打込まれていないはずはないんだ。
「思考錯誤法」
なんでも思いきってやってみる、もしそれでしくじったら、負惜みを言ったり、へこたれてしまったりしないで、すぐまた別のやり方で、全身的にぶつかって行く
"Method of Trial and Error"ですから、エラーは初めから覚悟の前、――そしてどこまでもフェア・プレイでいって、……負けてはいけない、あたまのなかでとる相撲は、絶対に勝たなければうそです。
「喧嘩線」、「自他の別」
「自」も「他」も、決して「己」から離れたものではなく、共に、「己」のうちに、しかも、どこからどこまでと、くぎりがつけられないほど、よくまじり合ったものだ、という、その、簡単なようで、一番のみ込みにくい点を、繰返して、よくあたまに入れて置いてください。
「たいことをたいせよ」(――感情と知性で意志を貫く)
対内的なうその恐ろしさだけは、一生忘れないでください。
このイブセンの言葉(「たいことをたいせよ」)も、南洲翁の「始末に困る人」とともに、みなさんの、一生涯のいい道づれとなることを、深く心から望みます。
「過不及」
言いたいこと、書きたいことを、はっきりと、ただ、たいしさえすればいいのです。
書きたいことが、胸いっぱいたまって来るまで、筆をとらないこと。
文章は、誰にも書けるが、えらくならないかぎり、いい文章は書けない。
一番肝心なのは、床や鏡にあたる心の面です。これが、曇っていたり、でこぼこだったり、ぷかぷかだったりしたひには、投射角も反射角も、めちゃくちゃで、いっこうとりとまりのつかないことは、火を見るよりも明かな話ではありませんか。
<他>
ごまかし、その場逃れ、負惜み、などの気持が、言葉の裏にもやもやしているだけです。
一生涯、これに類する口のききようは、お互に、断じてしないことにしようではありませんか。
この地球上に在るかぎりのものは、われわれ凡眼なればこそ、見出し得ないだけの話で、何かしら、存在の理由――従って、また存在の価値があるのだ、と、私は信じています。