Javaさんのお部屋(サム・ジーヴァ帝国図書館)

Javaさんのお部屋です。引っ越しました。詳しくは「はじめに」を読んでね。スマホ版は全体像が見えにくいから、PC版と切り替えながら見てね。

戦没学徒 林尹夫日記 完全版/わがいのち月明に燃ゆ

戦没学徒 林尹夫日記[完全版]―わがいのち月明に燃ゆ― (吉田山叢書)

【概要】
著者(監督):林尹夫

某食堂にあった朝日新聞の☟これより。

www.asahi.com

 

編集担当のもっさん、さすがや…(; ・`д・´)

自己をよくする事それは各瞬間に於て自己とかくとうすることである。自己と真剣にたちむかふことに我々はひるんではならない。

 

兄曰く、「私の意図は、戦時下の青年が真実探求の誠実な努力をつくしたか、その一端をあきらかにすること」とのこと。

尹夫、偏屈な男だったようだが学問に対する真面目さは人一倍。運命に押しつぶされながらも、強靭な意志を持ち続けノートに生きた証を残した。

古き良き教養主義時代の青年といった感じで、学問への憧憬とか、自分を鼓舞する言葉とか、異性(同性)への鬱屈した想いとか、能力に慄然たる開きはあるにしろ、自分を見ているような気持になった…。静かに眠れ…。彼女できた?

 

 

 

www.iza.ne.jp

 

これもよろしくな!

javalousty.hatenablog.com

 

【詳細】
<目次>

  • 第一部 ノートI・ノートII
  •  第三高等学校(1942年9月以前)
  •  京都帝国大学文学部(1942年9月~ 1943年12月)
  • 第二部 ノートⅢ
  •  武山海兵団(1943年12月19日~1944年1月26日)
  •  土浦海軍航空隊(1944年1月30日~ 1944年5月23日)
  •  大井海軍航空隊(1944年5月29日~ 1944年7月14日)
  • 第三部 ノートIV 昭和 20年の断想
  •  第八〇一航空隊一美保基地
  • 付記一筑摩書房版『わがいのち月明に燃ゆ』より一
  • 「回想に生きる林尹夫」 林克也
  • 「若き二人のフィロローゲンよ」 大地原豊
  • 解説
  • いのち月明に燃ゆ一近代日本の青年の知的探究と戦争- 斉藤利彦
  • 林尹夫関係資料群解題 田鉄美紀


<抜き書き>

▶克己系、お悩み系

僕は暇があるとこの日記をつける。何も書く事はないのだがとにかく、この軍隊生活を記録しておいて何か生きて居る痕跡をとどめておきたいのだ。具体的に自己を表現しうるのは今の生活にあってはこの日記だけなのだ。すべてが beschrä̈nktされただ自己喪失のみを強いられる今の生活にあっては。

尹夫、近代青年らしく心が激しく揺動する。克明にその痕跡を文字に留めた。

 

 「恋、肉のよろこび、之等はあまりにも僕に遠い。僕は恋をおそれる」↘
「嗚呼、緊張せずには居られない様な師・友人を得たい。又それらに値する如く自己を高めてゆかねばならない」↗
つまづいても立ち上がりconstantに努力せよ」↗
「自分が如何に薄志弱行だかよくわかる」↘
「生の自信がでてきた。建設的?!」↗↗↗
「たくましいものを建設したい。真の一人の人間を」↗
尊敬したい。愛したい。創造的に生きたい。一人の女性は別に求む[め]ぬ。されど一人の男性を、一人の友を、全人的に包容する一人の友を僕は求める。いや、それよりは矢張り一人でもがまんする」↗
「唯自分一人を充実させる以外何ものこされて居ない。さびしいなあ」↘

自己をよくする事それは各瞬間に於て自己とかくとうすることである。自己と真剣にたちむかふことに我々はひるんではならない」↗

「清らかなるもの、すぐれたるものへの努力、それなくしてどこに人間らしさがあるか。現実の僕は欠点にみちてる。しかし僕の意志はすぐれてゐる」↗

「こんなだらけた気分で遊んでゐてはならない。なにかをつかまねば」↘

「一体この小さき自己の殻はいかに破るか。外にも出られず、外なるものが之に入らぬ限り、のぞかうとする。あ々さびしき小さき人のうさよ」↘

 

「如何なる時も常に『精神の王国を持て』。それを可能にするのは理性の全体的把握だ」↗

「スベカラク弱事ヲステヨ。強ク強ク生キヨ」↗

「事実僕はつきあいにくい人間であろう」↘

(妄想)ナンテウスッペラナ!」↘

「一つのbildung、さうだ人間生活とは常に一つのbildungであらねばならない。我々の常に心を注ぐべきものは努力以外の何物でもない」↗

「人生とは教養の道、Wegder Bildungでなければならない。どんな状況にたってもしつかりと強く、絶対に泣言をいはずに生きてゆきたい」↗

「しかし我々のクラスメートを標準として我々の generation を考へる時、その運命を、その世界史的役割の故につぐなはねばならぬ我々のgenerationの犠牲を反省してみたい。そんな気持がこのやうな日記をつけさせるのだ」

「フン林尹夫ノポンスケ。モットシッカリシロ。ボヤケテ居ルトカチアゲラレルゾ」

「シカシ一個ノ人間ガ無価値ナル虫ケラノ様ニオシツブサレテユク事実ハ果シテ必然デアツタダケデスムノデアラウカ。俺ハカカル事態ハ必然デアルトハ思フ。日本ノ興亡。ソノ故ノ犠牲、ヤムヲエザル歴史ノ捨石トイフ事ハ真実ダ。シカモソノ事実ヲ現在ノ生活ノ中ニ、ソシテ自分自身ト、又俺ノ知友身ニセマツタ事態トシテ考ヘル時一体我々ハ如何ニ之ヲ考へタラバヨイノデアラウカ」

オプティミイズムをやめよ。眼をひらけ。日本の人々よ、日本は必ず負ける。そして我等日本人は何としてもこの国に新なる生命をふきこみ、新なる再建の道を切ひらかなければならないのだ」
「若きジェネレーション、君達はあまりにも苦しい運命と闘はねばならない。たが頑張つてくれ。盲目になって生きることそれほど正しいモラルではない。死ではない。生なのだ。モラルの目指すものは」

 

▶読書・勉強シリーズ

「英語・独語・思想の把握はslow but steadyでやってゆかう
「実に1に勉強2に勉強、3に勉強が大事である」
「高等学校時代に英、独、仏の三国語をとにかく物にしてやらう」

「自分の勉強が貧弱であることを実感する。今後がつちりしたものを築いてゆかう」「現在的関心の本質を追求し、今の僕の情念の流れに沈潜することがなによりも僕にとつてeesentialなのだ」

「本をよめず無駄な時間のすぎる今、僕の一番のぞむのは家にかへりゆつくり話をし本をよみ、飯をゆっくりたベ風呂からかへつてすぐねる。そして自分で定めた目標に向ひarbeitすることだ」

本をかふと自分の財産が増えた様な感じがして非常にうれしい

「本はあまり早くよんではなにもつかめぬ。しかし遅くよみすぎてもいけないものだ。或は早く、或は遅く、緩急よろしきをうるは一に修練である。

俺ハヨムゾ。ソンナ事デヘコタレルモノカ」

 

▶京大生シリーズ
クラスコンパがある故行つて見ようと思ふ」
「大文字は黒ずんでる。そのうしろは青い」

「京都の秋!! 外には雨がふる。汽車の汽笛、音、寺の鐘。それらは私をして快きennuiにひたらしめる。心もおちつき、ひきしまる。そして現在のこの清き孤独を愛する。京の秋よ」
「京都はさびしい。然し真に denken〔「考える」という意味のドイツ語の動詞〕の行へる場所なのだ。永遠のものとブつかる場所だ。古典主義はあらゆるものの母体ではあるまいか。それにいるにしてもいづるにしても」

今日で三高生活は終る。之でよかったと思ふ。あらたむべき事は又あらためよう。学んだ事をあくまで実践しよう。が過去はすぎた。僕の新しい道はひらけた。古きものへは涙しよう。そして新しいものにすすみゆかう」

「卒業(土浦航空隊の)もあと5日後となる。俺はこの頃深泥池の北の洛北の風景、東山、嵐山の新緑に心ひかれる。もう一度、あのもりあがる緑の知恩院、円山、清水のコースをたどりたいなど所詮かなはぬ夢想をする

 

▶その他(尹夫)

「中村の事をばかり考へる。一体親しいのか、はた否か」

「現代に必要なのは決して精神力ではない。卓越せる技術と機械力にあるのだ」

生活トハ要スルニソレ自体意味ヲ持ツモノデハナクイハバ我々ガ意味ヲ盛リ込ム容器デアル」
星野源

www.youtube.com

 

▶近しい人々

超人兄貴。

「真の悲しみは死後5~7年ぐらいになって、急激に、しかも痛烈に襲ってきた」

「生活は急変し、私は昼は職工になって働き、夜はオデンの屋台を曳いて行商した。そうしながら物理、化学、数学、それに自然科学に必要な英・独・仏の三カ国語を独習した。オデンを売りながら微分方程式を解き、指がかじかんで書けなくなった時の悲しみはいまでもかすかに残っているような気がする」

弟は「もうぜんぶ終ったのだ。だめだよ兄さん」と答え、いきなり優しく、きつく私を抱きしめた。おたがいに涙こそ一滴もこぼさなかったが、これほどせつない思いで一瞬を過したことは、かつて二人の間でなかったことである。
兄弟が、大人としての愛情を感じあったのはこのときである。弟は「本当は会いたかったのだ。でもね、ぼくは兄さんに会うのがいちばんこわかったんだ。本当に長い長いあいだ、すまなかった」と言った。
これが二人の永別だった。翌朝はやく弟は哨戒飛行にでかけた。私は一人で仕度して信州に戻った。

 

親友・大地原。
疎開先の姉に再会してすぐ知らされたのは、中村君から届いたという林君の戦死の報であった──軒先きにつっ立ったきり声あげて泣いた」

 

<メモ>

  • もっさんに感想だ!
  • 読書ノート兼、生の証明書。『春琴抄』『西郷南洲遺訓』『出家とその弟子』『告白(アウグスチヌス)』『チボー家の人々』『善の研究』(『夜間飛行』?)とか、ドストエフスキーとか…。原書で読んだものも多いぞ。
  • ライフワークは「西欧的なものとは何か」を知ること。日米開戦、五十六の死、そして自分も戦陣に…。 実存的にならざるを得ない。
  • 英独仏日羅その他を学ぶ尹夫。スペルミスに厳しい脚注。でも出先で外国語であそこまで書けるはスゴイ知力だよね。
  • 尹夫も凄いが兄貴も凄すぎないか。ガキ大将に頭突きした幼き日の記憶はなんだか鮮烈。

 

【2020/11/28追記】

★☆★もっさんへの感想★☆★

To:もっさん

どうもです。

◆林尹夫日記 感想
『戦没学徒 林尹夫日記 完全版/わがいのち月明に燃ゆ』ですが、
11月頭にようやく読了しましたので、簡単ながら感想を記します。

尹夫君、良くも悪くも古き良き教養主義時代の青年といった感じで、学問への憧憬とか、自分を鼓舞する言葉とか、異性(同性)への鬱屈した想いとか、
能力に慄然たる開きはあるにしろ、自分を見ているような気持になりました。
特に、
自己をよくする事それは各瞬間に於て自己とかくとうすることである。自己と真剣にたちむかふことに我々はひるんではならない
などの言葉にみられる、自己鍛錬や人格陶冶のあくなき継続への意志は、現代のわれわれに欠けがちなひたむきさを思い起こさせてくれるものでした。

他にも、
「なにかをつかまねば」
「たくましいものを建設したい。真の一人の人間を」
「人間生活とは常に一つのbildungであらねばならない」
「どんな状況にたってもしつかりと強く、絶対に泣言をいはずに生きてゆきたい」
「slow but studyでやってゆかう」
などの言葉は彼の精神の苦闘を物語る言葉かと思います。

また、こういった言葉の前後に、
「恋、肉のよろこび、之等はあまりにも僕に遠い。僕は恋をおそれる」
「自分が如何に薄志弱行だかよくわかる」
「事実僕はつきあいにくい人間であろう」
「唯自分一人を充実させる以外何ものこされて居ない。さびしいなあ」
のようなマイナス系の記述もあるところに、彼の自己に対するまじめさを感じました。

これらの言葉を胸に、
これからも心の中の尹夫君に鼓舞されながら生きていこうと思います。


後半の日記に見られる、
「世界史的役割の故につぐなはねばならぬ我々のgenerationの犠牲」
などの言葉を見るとたいへん沈鬱な気持になりますが、
我々現代の青年も 世界に瀰漫する自国第一主義ポピュリズム、世界的な感染症パンデミック、凋落する日本のプレゼンス、急速に進む生産年齢人口の減少など、
多岐にわたる世界史的な役割を担わされたgenerationであると感じます。
そんな中にあっても、
きけ わだつみのこえ』旧版序文にある、
「もはや、人間を追いつめるような、特に若い人々を追いつめるようなことは一切、人間社会から除き去らねばならぬ」
ということだけは堅持していきたいところです。

また、私的な日記であるにもかかわらず文章が整っていること、スペルミスや誤記が少ないことなどは
彼の強い自律心を感じさせるものがありました。

あとは、
「クラスコンパがある故行つて見ようと思ふ」
「(京都は)永遠のものとブつかる場所だ」
「もう一度、あのもりあがる緑の知恩院、円山、清水のコースをたどりたいなど所詮かなはぬ夢想をする」
などの言葉からは、私自身も京都で過ごした日々を思い起こされ、とても親近感を覚えました。

 

XXX氏も本書を購入していたみたいですね。
YYY君にもtwitter上で推薦しておきました。
また面白そうな本が出版されたら教えてくださいな。

 

サム・ジーヴァ帝(花押)

 

【2020/12/23追記】

▶ただお 講演記録
詳細は明かせないが、12/12にZoomで発表聞きました。自己紹介も!
世界で一番ただお濃度が高い電脳空間だったはず!あっちのただおは何を思う?

  • 現時点の発行部数は2000部弱程度。
  • アンネの日記よろしく親族が手記を出すと意識的/無意識に「編集」行為を行ってしまうのは仕方がない。これはどの程度まで許される?
  • ちくま版との異同はあれど、そこまで意図的・悪質なものはない。兄貴の気持ちも汲んであげて。