著者(監督):最果タヒ
【概要】
【詳細】
謎の言語体験を可能にする。
指、海、魚、子供、世界などの言葉が、既存の枠組みを溶かし、儚く不気味な詩的空間を現出する。
改行、空白、欠損などの表現はあまり好きではないが…。
『夏のくだもの』
都会は蒸し暑く
道には無数の穴があいている
のぞいたところにはいつもわたしのこどもたちがいて
手を伸ばすので
わたしはすこしずつ、わたしの体を捨ててきたが
最近は内側がからっぽになり
時々妙なものが漏れてくるのを
おおいかくすために化粧をしている
『苦行』
++ 左手の薬指にマメができて
、つぶしたら、海が飛び出してきたんです。
わたしは海と繋がっていて、魚のお母さんで
もあります。
『子牛と朝を』
とおくの指先で悲しんでいる
子牛に
かなしまなくてもいいよ
なんて言いたい
わたしの死を、きみが悲しむ必要はないよ
『再会しましょう』
君がわたしを思い出し、心からの優しさをそそいでくれたとき、
君がわたしのことを知らなくても、すばらしい花を見つけ、教えてくれたとき、
涙がでる音楽、
それらをみるとわたしはすべての可能性が、わたしの可能性が、細胞が、筋肉が、分散して空に散り飛行機に乗って大海へ、/飛ばされていくような気がしている/、いやきっとそうなんだ、わたしの名前を小さく書いたまま、わたしの可能性は飛んで、そして君もわたしの知らないところでちりぢりになって、沈 んでいく
『苦行』の「土星」ラッシュ、『博愛主義者』の「見える」「うそつき」ラッシュも忘れがたい。
でも、単行本未収録作品の方がすき。
『夜』
女の声で、わたしは何もないところにいるのよ、と電話がかかってくる。いなくなった人の名前をすべて彼女に問い掛けると、すべてが違うといわれた。けれど、すべての人の名前を言いおわったとき、ぼくは一つ年をとっていた。
『魚』
子供が足をおろした。その地上がわたしの帰る場所。だれもいない、地下室にもぐりこむ。そこは優しい音が響いている。風が歌っている。だれも知らないことを、わたしは忘れていって、それは、かならず美しい。
雨の音が消える瞬間に、わたしの歌は始まる。また見ることも無い夢を作り上げて、網から逃れようとする。魚は泳ぐ。わたしとは別の場所で魚は、まだ泳いでいる。
『四月はリルケ』
生活は輝いたまま、変化していく。帰り道のカレーの、匂いが、何年後に君の宝物になるのか、わからないが、そのころにはすべてがすり替わっているだろう。星は死ぬ瞬間にやっと爆発をする。もっとも輝くんだ。もっとも輝くんだよ。
「文庫版あとがき」
過去には未来の自分を轢き殺していくぐらいでいてほしい。確定した時間というものが、不確定でしかない未来より弱いはずがないんだ。
過去には、今より未来より、強くて残酷であってほしい。未来なんかに、生きていた時間を、過去を、否定させないで。グッドモーニング。これからも、どこまでも、いつまでも、私に生きていた数十年を突きつけてください。