評価:B
【評】
フュージョン(融合)を意味する新技術が、その正体だ。専用のレンズと恒星原板を使って鋭くシャープな像を結ぶ光学的プラネタリウムと、コンピュータで生成された映像を高解像度のプロジェクタで映し出すデジタルプラネタリウム。双方の長所を活かし短所を補うための革新的アイディアを僕は編み出した。
典型的、いや天啓的理系男子。
自作の卓上ピンホールプラネタリウムから、アストロライナー、メガスターを経て遂にフュージョンへ。
「会社設立とかそういうことには疎かった」。
「僕はそれまでの仕事を通じて、メガスターの恒星データを使って投影をCGで再現するソフトを開発していた」
「プロジェクタからの映像がドーム上のどこに投影されるか計算したり、その計算結果に基づいて元の映像データを複数の画面に分割して歪ませて出力するソフトウェアなどを自力で開発していた」
ハード・ソフト両面の設計、作製など、さらっとすごそうな技術力を垣間見せる。
総じて、技術者の矜持と偏屈・偏狭が随所に現れる人生だ。
物理部生活は今思い返しても特別に思い出に残る3年間だった。(中略)
そして、高校卒業後、進学しても同じような青春群像を追い求めたいと思った。(中略)
将来いつまでこのテーマに取り組むかなんて分からないけれど、もっと先に進んでみたい。高校を卒業して大学に進学したら、もっと凄いプラネタリウムを作りたいと考えるようになった。
しかしいつのころからか、僕は次第に上司や部長に対して不信感を持つようになっていった。理由は、往々にして重要な情報が知らされないことだった。僕の開発者としてのプライドと、ソニーのベテランとしての彼らのプライドが次第に衝突するようになっていったのかもしれない。
おそらくは一人で作り上げてきたことへの素直なリスペクトと共感がソニーの中には充満していた。にもかかわらず、身近な職場のごく少数の人間関係の問題を解決できないがために、それらすべてをぶち壊しにしてしまう無念。
僕もまた、現場との調和が大切だという教訓から、なるべく多くのことを現場スタッフたちと語り、気持ちを通わせることを意識していた気がする。これはソニーが僕に与えてくれた成長なのかもしれない。
個人が趣味でやっているならそれでいい。しかし今はもう大平技研という会社であり、従業員もいて、僕はエンジニアであるだけでなく、経営者なのだ。ライバルに勝ち、会社の売り上げをどうやって確保していくかを考えねばならない。
思えばずいぶんさまざまな局面を経て、今僕はここにいる。対人関係が下手だと長らく自認してきたが、何だかんだとスタッフたちに囲まれて、創立12年目に入った大平技研を今も率いている。僕は成長したのだろうか?実際のところは分らない。集団の中で何かと孤立しがちだった幼少時代。興味の対象が他の人と違い、他人の気持ちを汲み取るのが下手だった。にもかかわらず寂しがり屋だった僕は、人と繋がるための架け橋を期待して、プラネタリウムというテーマを選んだのだ。そして実際に、期待していたよりもはるかに多くの出会いを僕にもたらしてくれた。