評価:B+
【概要・感想】
モーツァルトをこよなく愛する著者が、倉敷絹織(現クラレ)二代目社長・大原總一郎の人生をたどる。『わしの眼は~』ではやや物足りなかった總一郎の生涯を補完できる。写真が多いのもグー。
彼は、高等小学校卒で学問嫌いの父とは違い、カントやモーツァルトを愛する洋行帰りの東大卒インテリ。当時は、その名を知らぬものがないほどの経済界の領袖であった。この父にしてこの子あり。總一郎もまた、ただの一企業の経営者ではなかった。日本の戦後経済界を牽引しただけでなく、文化人としても深い理解と教養を持っていた彼は、思索とビジョンを持った事業家であった。
「本書には總一郎自身が書き残したものの、語ったものの他に、関係者の回想を多く取り入れ」てあり、著者はそれらを順序良く並べ、時には自身の言葉を語る。その塩梅が絶妙。著者の文章も總一郎の文章も、味わいがありなおかつ読みやすい。当時の情勢や各種制度、化学繊維の解説もわかりやすく過不足がない。總一郎の「へこたれない理想主義者」ぶりを、著者は語り尽くしているといっても過言ではない。
ビニロンの工業化・中国へのプラント輸出はやはり、彼の生涯を語る上で外せない。總一郎はまさしく「真のエリート」で「グローバルリーダー」であったと言ってよいだろう。そんな私は孫ちゃんより總一郎派。
【名言】
人間には、自分の能力の限界をこれだけだと決めてかかる権利は与えられていない。どんな場合でも、その人の中に潜んでいる人間の能力は、自分や他人が判断する限界よりも、はるかに大きいものである。