Javaさんのお部屋・改

Javaさんのお部屋です。引っ越しました。詳しくは「はじめに」を読んでね。スマホ版は全体像が見えにくいから、PC版と切り替えながら見てね。

絹と明察

著者:三島由紀夫
評価:B

【評】
 
事業は涙や、岡野はん。わしはほんまに、わしが父親で、うちの工場で働らいているもんは、娘や息子や思うてます。父親の今日の晴れ舞台やいうことを察して、ああまで一心に、まごころこめて、社歌を歌うて、お客様を送り出す気持、これが尊いんですわ。この気持が駒沢紡績を盛り立ててきましたんや。
『宴のあと』と似たタイプ。
「企業の成功と結びついた愚かしい情念ほど、確信に充ちて、大手を振って歩くものはない」
「誰かその確信を打ち破ってやりたくならぬ者があろうか?」
ということで、
少女の抜殻の上に立つ欺瞞の城を、若い力(と暗躍するわるいやつら)が破砕する。
あなた方は、女子労働者を蛹のあいだだけ飼育して酷使できるだけ酷使して、たえず新陳代謝をやっているわけですね。彼女らは決して蝶になれません。少なくとも工場にいるあいだは蝶になれないよう押えられていたんです。蛹のまま湯に漬けられるあの絹紡工場のように、絹はそうやって作られて来たんです。

日本的体質に冷笑を浴びせ、若い力や合理性を尊びながらも、
最期には女子工員の情深い救いを用意しておくのは単純でなく奥深い。

相変わらずムシュー・ミシマ、比喩と心理分析が好きなので紹介しておく。
「世界」「崩壊」は鉄板。
蠅にも恍惚があるのだろうかと岡野は考えた。この壮大な空の前の一点の汚点に、忘我の時の移りがあり、その不潔な金色の胴体が、押し黙った官能に充ちていること、……こういう世界の遠近法(パースペクティブ)を思い見ると、岡野は、世間の人間が彼の変節を咎めたり、彼の金儲けはゆるしても思想の復活はゆるさなかったりする、そんな問題の重みが、この空と、この蠅との間の、どの辺に位置するのか甚だ怪しくなった。

彼の願望がえがく像を、彼の世界はいつも忠実になぞっていた。

そこには人生の必須の諸要素、青春と正義感と恋と吝嗇と純情と野心と権力慾と世間智とが、ばらばらに配分されていた。これが一身に具わっていたら、どんなによかったろうに!

彼女の痛みは閃光のように過ぎ、大槻はその血のしたたりに、世界との和解を感じた。

世界はまだ生乾きなのであった。いたるところで、凭りかかろうとする上着の背には、べったりと悲惨のペンキがつく。それならまだ、思っていたほど、世界は竣工していないのではないか?

房江はこの数夜、世界が確実に崩壊してゆく音を枕に聴いた。

その怒った怪魚の口には、鋭い歯が並んでいたが、金箔は消え、鱗は埃に埋もれ、置かれるべきでないところに置かれて、雲の去来とも隔てられ、……いわば世界のもろもろの意味のある配列から外されていた。
<おまけ>
強く射た自分の尿の凛々しい線条の燦めきをよく憶えている。あのとき、屈辱のどん底と、光栄とがまざり合い、彼はその若々しく力強い放尿で会社側を圧したのだ。