Javaさんのお部屋(サム・ジーヴァ帝国図書館)

Javaさんのお部屋です。引っ越しました。詳しくは「はじめに」を読んでね。スマホ版は全体像が見えにくいから、PC版と切り替えながら見てね。

チベット旅行記

著者:河口慧海

【概要】
明治時代に真の仏典を求め、鎖国中のチベットに乗り込んだ変な僧の冒険活劇。寒さや高山病や熱病で何回も死にかけたり、ヒマラヤ山脈近傍国のVIPと友達になったり、原始仏教の斎戒を保ったりと、その生命力や行動力、精神力に感嘆する。チベットの人びと、風俗、文化、自然などを細大漏らさず記憶しており、西蔵風土記と化している。講談調の「あるです」「したです」などのしゃべり方、ビミョーな腰折れ短歌がカワイイ。

【詳細】
まずは旅立ちの理由から。
その実私は二十五歳で出家してから、寺や宗門の事務の為に充分仏道を専修することが出来なかった。一切蔵経を読んで居る中においてもときどき俗務に使われる事があってせっかく出家をした甲斐がないから、かの世界第一の高山ヒマラヤ山中にて真実修行を為し得るならば、俗情を遠く離れて清浄妙法を専修することが出来るだろうという、この願望が私のヒマラヤ山道を越えて入蔵する主なる原因でありました。

インド・ネパールを越えてチベットに至る(概ね時計回り)。
いろんな出逢いありまして、いろんな艱難ありました。
やっとこさ辿り着きましたは雄大にして優美なる銀嶺。

飢餓渇渇の難、渡河瀕死の難、雪峰凍死の難、重荷負載の難、漠野独行の難、身疲足疵の難等の種々の苦艱もすっぱりとこの霊水に洗い去られて清々として自分を忘れたような境涯に達したです。

EKAI、類まれなる学習能力・適応能力・記憶力・人徳をいかんなく発揮する。

<学習能力・記憶力>
宗教観はもとより、冠婚葬祭、教育、階層の別、医療、牧畜、慣習、刑罰、政治、経済、社会、風俗、食生活、外交、財政、遊戯など、ありとあらゆる事物を語り尽くす。すごい。好奇心の塊だ。
もはやこの口述筆記(挿絵あり)、博物誌、地理誌と化している。 
「日々夜々に勉強したです」というチベット語習得や仏典蒐集にかける向学心や探究心、信仰心、不撓不屈の精神力、見習いたい。

<適応能力・人徳>
すぐなじむ。
「それやこれやで私を余程必要な人間と認めてこの村に永住されん事を希望する者が沢山ありまし」た。
芸は身を助く、ということで学生がくしょうの合間に医者もする。仏道の合間に子供と遊ぶことも忘れない。
「親密なる交際が私がチベットを出ます時分に非常の助けをなしました」。
民草だけでなく、大臣や高僧、さらにはラサ府法王やネパール国王にまで謁見する。
法話と徳望、ネームバリューと運と策謀でパトロンを見つけ、VIPネットワークを広げていく規格外の人物。
 
情熱だけかと思いきや意外と計算高い策士でもある。
ルート選定により関所を回避したり、中国人のフリをしたり、身バレしないよう話を誘導したり、神通力を持ってるフリをしたり、相手を酔い潰したり、論駁したり、手段を選ばない。

困難や仏法、自然に感ずることがある度にヘボ歌を詠むお茶目な一面もある。

<縁>
僧だけあって縁や功徳を大事にする。
「私はその夜ブダガヤの菩提樹下の金剛道場で坐禅を致しましたが実に愉快の感に堪えなかった」

「私は幸いにして仏陀の光明裡に摂取されて居りましたからそういう誘惑から免れる事が出来ました」

<修養>
怒るということは馬鹿の性癖であると悟りまして私はその後辱めに逢うても忍ぶという心を養成した訳でございます。

<ほめる>
チベット人を淫猥だ汚穢だ怠惰だ蒙昧だとは言いながら(鼻水でカピカピの裾、垢まみれの肌、歯糞まみれの臭い口)、
誦経の声や修学問答法、山・湖・滝などの大自然、鳥や羊や鹿の「愛らしい」動物などは好きらしい。
特に大自然はいたくお気に入りのようで、「宇宙自体真秘幽邃」「華蔵世界の音楽師」「兜率天上の銀光殿」などの最高級の形容をしつつ、「写真機械があってこういう景色を映して行ったら、どんなに人が喜ぶだろうかと思うほど惜しくて堪らぬような景色」とほめる。

<ポジティヴ>
到る処に従いその機に応じて方法は自ら生じて来るであろうと思って居ります。

極められぬ事があるといつも断事観三昧に入って事をきめるのであります。

<外国語学習>
「俗語を学ぶにはその国人と同居するに限ります」

「殊に俗語の良い教師は男子よりも女子、女子よりも子供で、子供と女子とはどこの国語を学ぶにもそうですが、発音の少しでも間違ったことは決して聞き棄てにはしない」

馬鹿だの頓馬だのと罵り、あるいはその記憶力の足らぬ事判断力の足らぬ事をば無碍に卑しめてその自信力を奪うという教育法は、確かにその子供の発達を妨害する方法だと思います。

このハゲ―ーー!!!

<やっぱり明治人>
「山海三千里を隔てたるこのヒマラヤ山中において明治天皇陛下の万々歳を祝することの出来るのは実に愉快であると思うて覚えず嬉し涙に咽びました」

<印エピ>
印象的なエピソードとしては、
大獅子尊者センチェン・ドルジェチャンの最期、汚穢の習慣、晒し者の貴婦人、ラマの転生、疑獄事件など。